今回はよくご質問をいただく「養子」について述べたいと思います。
養子とは、「実の親子関係のない人との間で、親子関係、またそれを通じた親族関係を発生させる制度」です。なお、血縁上の親子関係が切れてしまう「特別養子縁組」については代理出産など特別な事情がある場合に出てくる話となりますので一般的にはあまり関係ありません。(よって、今回は省略します。)
1.普通養子縁組とは
昔から言う所の通常の養子縁組のことを言います。養子縁組を行うことによって、新しく親子関係が発生しますが、実親(血縁上の親)と法的な親子関係は無くなりません。養子側から見れば、養親と実親という2種類の親がいることになります。当然、扶養や相続関係も二重に発生することとなります。
・養子縁組のメリット、デメリット
養子縁組のメリットは、養親と養子との間に親子関係が実子と同じように成立するという点が挙げられます。また、その関係は原則として生涯続くものとなります。一方、デメリットもあります。まず、実の親子関係ではないので、一定の条件を満たせば養子縁組を解消すること(離縁)ができます。つまり、長年続いた養親子関係が、何らかのトラブルを原因として突然なくなってしまうということがありえます。また、場合によっては養子に対するネガティブなイメージとして、実子や親族から財産目当てなどと思われてしまう等のリスクはあります。なお、養子になると実の親の相続が受けられないと誤解している方もいらっしゃいますが、異なりますのでご注意ください。
※具体例
父、長男、長女の3人家族の場合(母は既に死亡)、父が亡くなったときの法定相続分は
●長男1/2、長女1/2となります。
このケースで「長男の嫁と長男の父が養子縁組をした」場合、法定相続分は
●長男1/3、長女1/3、長男の嫁(養子)1/3となります。
長男グループ(長男と嫁)が2/3の遺産を一般的には相続することになるので長男たちにとっては養子に入れたことで多くの遺産を相続することになります。これがメリットと言えばメリットですが、長女にあらぬ疑念を抱かせることになりかねないため、デメリットにもなりえます。
(その他にも法定相続人が増えることで相続税の低減効果もあります。)
・養子縁組後の相続
養子縁組後の相続は、二重に発生します。つまり、実の親が亡くなった時にも、養親が亡くなったときにも、それぞれ相続権がありますので、2回相続を受けることができます。ちなみに、養子になった子がさらに別の人と養子縁組することも可能です。この場合の相続は、実の親と前の養親と新しい養親との間で行われますので3回相続を受けることができます。
・戸籍と氏(苗字)
養子は養親の戸籍に入ります。その際、戸籍には養子縁組の事実が記載されます。
また苗字は、養親と同じ苗字になります。
2.養子縁組の条件
養子縁組を行うためには、以下の条件が必要です。
◎養親が成年者であること
◎養子が養親より年長ではなく、尊属(父や母、祖父母など、目上の親族)でないこと
◎市区町村役場に養子縁組をした旨の縁組届けを提出すること
3.様々な養子縁組
・再婚時に縁組するケース→再婚時に行う養子縁組は、自分や相手の連れ子を、一方の養子にするケースです。連れ子が未成年であるときは、相手方の同意が必要ですし、家庭裁判所の許可も必要となりますのでご注意ください。
・結婚時に縁組するケース→結婚をする際に、相手の両親と養子縁組をするということもありえます。こちらも相手の両親の双方が同意している必要があります。
・孫と縁組するケース
孫と養子縁組をする場合、孫が未成年であれば、祖父母揃って養子縁組をする必要があります。孫が成年であれば、祖父母の一方と養子縁組することが可能です。ただし、その場合でも、他方配偶者の同意を得なければなりません。
4.手続き
・養子縁組届を用意
・養親になる方と養子になる方が市区町村役場に行き、養子縁組届と必要書類を提出する
・必要書類は、届け出先の市区町村に本籍のない方の戸籍謄本。また、未成年者を養子縁組する際には、家庭裁判所の許可審判書が必要です。
・費用
普通養子縁組は、市町村役場に書類を提出して受理してもらうことで完結しますので、費用はかかりません。
5.その他
・養子縁組の解消、離縁
養子縁組の解消(離縁)には、大きく分けて協議離縁、調停離縁、裁判離縁という3種類があります。この点は、おおよそ離婚と同様です。なお、裁判離縁によって離縁が認められるためには、3年以上の生死不明や、縁組を継続しがたい重大な事由があることなどの法定離縁事由が必要となります。これらが認められれば、相手が拒んでいても離縁が成立することとなり、逆にこれが認められなければ、相手がどれだけ離縁を望んでいても離縁は成立しないものとなります。離婚のケースと似ていますが、不貞行為や重度の精神病であることが離縁の事由となっていない点が異なります。