第11回 相続人が兄弟姉妹だけの場合のケーススタディー

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佐久間 寛

2020-04-24

第11回 相続人が兄弟姉妹だけの場合のケーススタディー

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3月29日に志村けんさんがこの世を去りました。
これまでたくさんの笑いを届けてくれた志村さんの訃報に驚きとショックを受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
一方、インターネットや週刊誌では、志村さんの遺産はいくら?誰が相続する?といった話題も目にします。これらによると、志村さんには戸籍上の配偶者はおらず、両親も他界しており、二人の兄がいるということのようです。現在あるいは今後見込まれる社会的背景によって、志村さんのように配偶者や子、両親がおらず、相続人が兄弟姉妹だけというケースも一層増えてくると思われます。仲の良い兄弟姉妹ならともかく、長年音信不通であったり、親の死後、関係がこじれてしまった、といった場合も多いでしょう。
今回は、相続人が兄弟姉妹だけの場合で、一般的にも起こりうるケースをもとに、相続について考えてみましょう。

<前提>
Aさんは独身、婚姻歴なし。子どももいない。
両親はすでに他界しているが、二人の兄がいる。
遺言書はなし。

前提のまま、Aさんが亡くなった場合

当然、相続人は二人の兄になります。
法定相続分は2分の1ずつ。もしAさんの遺言書があれば、それに従って遺産を分けることになりますが、なければ、二人の兄が遺産分割協議、つまり話し合いによってAさんの遺産をどう分けるかを決めます。スムーズに話し合いがまとまればいいですが、果たして長男と次男双方が気持ちよく納得できるかどうか…兄弟姉妹間における親や兄弟姉妹の遺産の奪い合いは、争う族の典型的な例です。
なお、補足ですが、兄弟姉妹が相続した際に支払う相続税は2割加算となります。※参考:2020.4.21発信お役立ち情報「相続税の2割加算に要注意」(油良税理士)
 

二人の兄(あるいはその一方)がAさんより先に他界している場合

二人の兄、あるいはその一方がAさんより先に他界している場合、その兄の子(Aさんにとって甥姪)がいれば、代襲相続となるため、その甥姪も相続人になります。尚、兄弟姉妹の代襲相続は一代限り(=再代襲なし)ですので、その甥姪も他界している場合には、さらにその子である人には相続権が移りません。もし、二人の兄がAさんより先に他界しており、兄の子もいなければ、法定相続人は誰もいないということになります。 

二人の兄も他界していて、相続人が誰もいない場合

生涯未婚であった人や、相続人になりうる兄弟姉妹がいるものの多額の借金があるなどの理由で全員が相続放棄をした結果、相続人が誰もいなくなってしまうケースもあります。その場合、遺産はどうなっていくのでしょうか。主な流れは次のとおりです。

(1)相続財産管理人が選任される

相続人が誰もいないときは、行き場のない遺産は、まず「相続財産法人」というものに法人化されて管理・処分されます。その相続財産法人を管理する役割を務めるのが「相続財産管理人」です。
相続財産管理人は、検察官や利害関係のある債権者や受遺者が、家庭裁判所に対して選任の申立てを行うことによって、家庭裁判所が選任します。相続財産管理人は、借金の返済や遺贈の履行、相続人が存在しないかの捜索、遺産の清算などが主な仕事です。尚、相続財産管理人が選任されると、家庭裁判所はその旨を公告し、相続人に名乗り出るよう促します。相続財産管理人は、選任の公告後から最低2カ月間、相続財産の保存・管理を行いながら、相続人が現れるのを待ちます。

(2)利害関係人(債権者・受遺者)への返済、支払い

相続財産管理人の重要な仕事の一つが、債権者や受遺者への返済、支払いです。
選任の公告からの期限(最低2カ月)が過ぎても相続人が現れなければ、相続財産管理人は債権者や受遺者などすべての利害関係人に対して、2カ月以上の期間を定めて債権の申し出を行うように公告します。そこで債権者や受遺者がいれば、遺産から支払われることになります。

(3)相続人捜索の公告
上記(2)をもってしても相続人の存在が不明な場合、相続財産管理人は家庭裁判所に対して相続人捜索の公告申立てを行います。家庭裁判所は公告によって、「相続人は一定の期間内にその権利を主張すべき」と促します。この公告は6カ月以上の期間が必要です。それでも相続人が現れなければ、「相続人不存在」が確定します。

(4)特別縁故者に分与する

債権者に債務を返済し、期限内に相続人も現れなかった場合は、「特別縁故者への財産分与」が行われます。特別縁故者とは、「被相続人と生計を一にしていた者」「被相続人の療養看護に努めた者」「その他、被相続人と特別の縁故があった者」といった人であり、遺産の分与を受けることができる場合があります。具体的には、内縁の妻や、養子縁組はしていないが本当の親子と同等の関係にあった人、知人だがとりわけ看護の面で密接な関係にあった人などです。
ただ、特別縁故者となるためには、家庭裁判所に申し立てる必要があり、その期限は、相続人不存在が確定してから3カ月以内ということになっています。実際には、そういった関係にあったということを家庭裁判所に証明できなければ、特別縁故者と認めてもらうことは難しいでしょう。また、特別縁故者と認められても、上記(2)利害関係人への支払いによって、遺産がなくなった場合は、遺産をもらえなくなることもあります。

(5)残った財産は国庫に帰属する

これらを経てもなお残ってしまう財産があった場合、最終的に国庫に帰属することになります。国庫に帰属するとは、簡単に言うと「国所有の資産になる」ということです。相続人がいない場合、すぐに国のものになるわけではなく、実際には相続財産管理人の選任から債権者への公告、相続人捜索の公告、特別縁故者への財産分与などを経て、国庫に帰属するまでに1年以上の期間を要することになります。 

内縁の妻や隠し子がいた場合

内縁の妻は、上記ケース③-(4)のとおり特別縁故者になることがあっても、法定相続人にはなりえません。遺産分割協議にも参加することはできませんので、内縁の妻に財産を遺したいのであれば、遺言するしか方法はありません。
また、婚外子(婚姻関係にない相手(愛人等)との子)がいた場合は、どうでしょう?
結論から言えば、被相続人が認知さえしていれば、その子は相続人になります。認知は、死後認知や遺言でも行うことができます。死後認知とは、父親の死後3年以内に、検察官を相手として訴えます。審理内容は血縁的な親子関係の有無で、DNA鑑定や証言などをもとに総合的に判断されます。死後認知が認められると、子どもは生まれたときから父親の子どもであったとみなされます。(民法784条)つまり相続人になるのです。
もし、認知した子がいれば、今回の前提においては、その子が唯一の相続人になりますので、二人の兄は相続人ではなくなることになります。二人の兄にとってみれば、まさに青天の霹靂ですね…
 

まとめ

以上のように、相続人が兄弟姉妹だけという方も少なくはないでしょう。今後、増えていくことも考えられます。その兄弟姉妹がこれまでどのような人生を送り、人間関係を構築してきたかということは十人十色です。もし、自分自身あるいは兄弟姉妹に相続が発生したら、遺産分割がどのように進んでいくのか、終活の一環として、考えておく、対策を打っておく必要性も大きいと思われます。

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司法書士

平成17年司法書士試験合格
平成18年簡裁訴訟代理認定考査合格
資格試験予備校、都内司法書士事務所勤務を経てライト・アドバイザーズ司法書士事務所開設

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