はじめに
前回、遺言執行者の指定・選任についてご紹介しましたが、今回は、遺言執行者の権利義務や職務内容についてご紹介させていただきます。
従前ご説明したとおり、遺言執行者は、遺言の内容を実現し、遺言に基づく権利の実現とそれに関連して必要となる事務を行う者であるところ、遺言の内容をスムーズに実現するために遺言執行者を指定・選任しておくことが有益です。そして、指定・選任された遺言執行者が、就職を承諾すると、正式に遺言執行者として任務(職務)を遂行することとなります。
以下では、就職を承諾した遺言執行者の権利義務や職務内容について述べていきます。
遺言執行者の権利義務とは
改正前の民法において、遺言執行者の法的地位は、「相続人の代理人とみなす」とする規定があるのみで、必ずしも法的な地位や権限等が明確に定められていませんでした。そのため、遺言者の意思と相続人の利益が対立する場面で、遺言執行者と相続人間でいずれの利益を優先すべきかというトラブルが生じることもありました。そこで、改正民法では、遺言執行者の法的地位を明確化する規定が新設されることとなりました。民法上の規定は以下のとおりです(なお、以下で述べる遺言執行者に関する民法上の規定は、いずれも令和元年7月1日から施行されている改正後の民法の規定になります)。
(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
これにより、遺言執行者は、「遺言の内容を実現する」ことを職務とし、必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではないことが明らかになりました。また、上記民法第1012条第3項のとおり、遺言執行者は、民法上の委任の規定に従い、善良な管理者の注意を持って遺言執行に必要な行為をなす義務(民法第644条)、相続人に対する報告義務(民法第645条)、遺言執行にあたり受領した金銭等の引渡し及び取得した権利の移転義務(民法第646条)等の義務を負うことになります。
遺言執行者の職務内容とは
民法上定められている遺言執行者の主な職務内容は、以下のとおりです。
⑴ 相続人に対する遺言執行者の就任及び遺言の内容の通知
遺言又は遺言で委託された第三者によって指定されるか、家庭裁判所によって選任された遺言執行者は、遺言執行者への就職の承諾をすることで、正式に遺言執行者の地位に就きます。就職を承諾した遺言執行者は、速やかに任務(職務)を開始し、遅滞なく相続人に対して、遺言の内容を通知する必要があります。民法上の規定は以下のとおりです。
(遺言執行者の任務の開始)
第千七条 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。
2 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
改正前の民法では、上記民法第1007条第1項に相当する規定しか置かれておらず、遺言執行者の最初にすべき職務として、遺言の内容を相続人に通知することは定められていませんでした。その結果、相続人としては、遺言書の内容や遺言執行者が就任したこと自体を知る手段が存在しないという不都合が生じたため、遺言執行者の最初にすべき職務として、遺言の内容の通知が義務づけられました。
⑵ 相続財産の管理
遺言執行者は、相続人に対する遺言の内容の通知をした後、相続財産の管理をする必要があります(上記民法第1012条第1項)。
具体的には、不動産の場合、権利証や契約書の保管者からその引渡しを求めることが挙げられます。また、預貯金の場合、預金通帳、預金証書、印鑑等を保管者からその引渡しを求めるとともに、当該金融機関に対して、遺言執行者の同意なく払戻しに応じることがないように通知するなどの措置が考えられます。
⑶ 相続財産目録の作成
遺言執行者は、遺言者の相続財産の目録を作成し、これを相続人に交付する必要があります。民法上の規定は以下のとおりです。
(相続財産の目録の作成)
第千十一条 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。
2 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。
遺言執行者が調査して目録に記載すべき相続財産は、遺言執行の対象となるものであって、これを特定し得る程度であれば足り、その評価額まで記載する必要はないとされています。
遺言執行者の権利義務及び職務内容に関する説明は以上になります。次回は、遺言執行者がいる場合の遺言執行の妨害行為の効果等についてご紹介します。
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