第44回 遺留分制度と権利者

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江幡 吉昭

2020-02-18

第44回 遺留分制度と権利者

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前回までは、「遺言」についてのお話をしてきましたが、今回からは遺留分についてのお話です。まず、遺留分って何でしたっけ?というところから始めましょう。
前回までお話ししたとおり、「遺言」を残すことによって被相続人がその財産を誰にどれくらい相続させるのかを定めておくことができます。
さて、ここで次のような遺言があったらどうでしょう?

遺産を全て愛人Y(注)に相続します。

※注:もちろん、愛人なんて書きませんが。

家族の思いもいざ知らず、この遺言によって相続人の存在を無視して本来権利のない(法定相続人ではない)愛人Yに全ての遺産が相続されることになってしまうのでしょうか?

 

遺留分って何だろう?

ここで登場するのが「遺留分」です。
亡くなった人の財産はその意思を尊重して自由に相続先を指定してもいいと思いますよね。遺言があればそれが優先されます。とはいえ、好き勝手に財産の行き先を決められるわけではありません。家族の力添えがあったからこそ築けた財産も多いでしょうし、他人に全て相続されてしまったら、残された家族は生活に困ってしまうかもしれないからです。
このような場合を考慮して、民法では「遺留分」という権利を認め、一定範囲の相続人(これを「遺留分権利者」といいます)が“一定割合の財産”を相続できるようにしています。
つまり、正式に遺言書に記載された内容であったとしても、遺留分を侵害する部分は無効になり、遺留分権利者がその権利を行使すれば、一定割合の財産を相続することができます。この遺留分の権利を行使することを遺留分侵害額請求といいますが、それについてはまた後日お話ししますね。

遺留分権利者って誰?

では、遺留分権利者とは誰のことを指すのでしょうか?
なんとなく法定相続人のことであることは思いつきますよね?おおよそそのとおりなのですが、ここで注意すべきなのは“法定相続人の全員に遺留分が認められているわけではない”ことです。遺留分権利者になれるのは、法定相続人のうち、①被相続人の配偶者、②被相続人の子、③被相続人の(直系尊属である)父母、祖父母(注:被相続人に子がいれば、父母などは相続人にはならないので、この場合には遺留分権利者にもなりません)です。
そうです、被相続人の兄弟姉妹はたとえ法定相続人であったとしても遺留分が認められていないのです。というわけで、遺留分権利者の範囲は法定相続人の範囲より狭くなっています。
では、なぜ兄弟姉妹に遺留分が認められないのでしょうか?

その理由は、一般的に兄弟姉妹は被相続人とは別世帯を有しているため、財産形成に貢献しているとは言えないからなのだそうです。

請求できる遺留分の割合はどれくらい?

それでは、遺留分を請求できる“一定割合の財産”とはどれほどの割合なのでしょうか?
原則として本来の法定相続分のさらに2分の1(直系尊属は3分の1)です。ちょっと分かりづらいので、遺留分の割合の例を出してみますね。

①法定相続人が配偶者と子ども1名の場合
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもも2分の1。
遺留分はさらに2分の1なので、配偶者が4分の1、子どもも4分の1。

②法定相続人が配偶者と子ども2名の場合
法定相続分は配偶者が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1ずつ。
遺留分はさらに2分の1なので、配偶者が4分の1。子どもが8分の1ずつ。

③法定相続人が配偶者と両親(直系尊属)の場合
法定相続分は配偶者が3分の2、両親が全体で3分の1(父と母が健在であればそれぞれ6分の1ずつ)。
遺留分はさらに2分の1なので、配偶者が3分の1、両親が全体で6分の1(父と母が健在であればそれぞれ12分の1ずつ)。

④法定相続人が両親(直系尊属)だけの場合
法定相続分は100%。
遺留分は全体で3分の1(父と母が健在であれば6分の1ずつ)。  

⑤法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合
法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が全体で4分の1。
遺留分は兄弟姉妹には認められないので、配偶者が全体の2分の1、兄弟姉妹はゼロ。

⑥法定相続人が兄弟姉妹だけの場合
法定相続分は100%。
遺留分はゼロ(仮に遺言で他人へすべての遺産を相続させると書かれていた場合は、一切相続することができません)。

具体的な計算をしてみましょう。
妻と子ども2人がいて、財産の総額が1000万円である場合、遺言がなく法定相続分で分けるとするならば妻が500万円、子ども2人がそれぞれ250万円ずつを相続することになります。
さて、ここで愛人Yが登場してきて、遺言によって「愛人Yに被相続人の全て財産を遺贈する」とされていた場合、遺留分はどうなるか計算してみましょう。この場合の遺留分は法定相続分のさらに2分の1ですので、妻が250万円、子供2人がそれぞれ125万円ずつとなります。
よかったですね、遺留分のおかげで遺産の半分は請求することによって取り戻せることになります・・・と、考えるのはちょっと早いかもしれません。“半分しか取り戻せない”と考えることもできますよね。つまり、この愛人は間違いなく500万円は相続することができてしまうのです。
皆さんはこれをどのようにお考えになりますか?
 

遺留分おまけ

最後に1つ余談ですが、「ペットに相続させる」という遺言の話を聞いたことがありませんか?
信頼できる親族がおらず、常に癒しを与えてくれた家族の一員であるペットの世話が心配で記載するのでしょうが、実は今の日本の法律では無効です。原則として、動物は「物」として扱われ(刑事事件でも動物へ危害を加えた場合は器物損壊罪ですよね)、法律上の「物」は財産を所有できないことになっているからです。どうしてもペットに財産を残したい場合は、ペットの世話をしてくれる信頼できる「人」に財産を残す必要があります。とはいえ、その場合でも遺留分権利者の存在を忘れてはいけません。 

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