はじめに
前回、遺言の執行の一環として行われる「検認」手続きの流れについてご紹介しましたが、今回は、その検認手続きの効果、注意点を中心にご紹介します。
公正証書遺言以外の遺言は、民法によって定められた方式や要件を満たす必要があるだけでなく、家庭裁判所で行われる検認手続きを経由して、初めて遺言としての効力を公的機関等に認めてもらうことができます。
遺言は、どの財産を誰に承継させるか、相続人に対して遺言者の死後、どのような行動をとることを求めるかなど、内容面が重視されがちですが、たとえ遺言書の内容面に問題がなかったとしても、相続人間の人間関係などが原因で、遺言・相続に関する手続きがスムーズに進まないということも起こり得ます。そこで、遺言者としては、遺言の内容面だけでなく、遺言の手続きの実行、つまり遺言の執行についても、きちんとフォローすることで、相続人間の紛争のリスクを軽減することができます。
以下では、遺言執行の出発点ともいえる、検認の効果および注意点等について述べていきます。
検認の効果とは
前回ご紹介しましたとおり、遺言書の検認手続きは、家庭裁判所に検認の申立書と戸籍謄本・除籍謄本等を提出し、当事者間に立会いの機会を与え、遺言書の調査内容に関する調書を作成し、遺言書に検認済証明書を付すという流れになります。
この点、遺言書の検認済証明書をもらえれば、当該遺言書は、「有効」なものであると考えられる方も多いかもしれません。しかしながら、この検認手続きを経た上で、遺言書に検認済証明書を付されたとしても、当該遺言書が「有効」になる訳ではありません。
検認とは、遺言書の偽造・変造を防止し、保存を確実にする目的でなされる、遺言書の現状(遺言書の方式・記載などの外部的状態)を調査・確認する手続きですので、あくまでも検認による効果は、遺言が形式的な要件を満たしていることを明らかにするにとどまります。
遺言書が無効となる場合としては、第14回「遺言が無効となる場合」でご紹介したとおり、遺言者の遺言能力を欠く場合(遺言者が15歳未満である場合(民法第961条)等)や、遺言の内容が公序良俗に反する場合、遺言事項に該当しない場合(遺言によってできる旨が法律上定められていない事項について遺言書に記載されている場合)などが考えられます。また、遺言書が偽造されたものであると後に判明した場合も同様です。
したがって、遺言書の検認手続きを経た後であっても、遺言書が無効であると主張がされる可能性があり、裁判手続き等で実際に遺言書が無効である旨の判断がなされた場合、当該遺言書は効力を失うこととなります。
検認における注意点とは
公正証書遺言以外の遺言書の保有者または発見者が、家庭裁判所に遺言書の提出を怠り、検認手続きを経ないで遺言を執行した場合、また封印されている遺言書を家庭裁判所以外で開封した場合には、5万円以下の過料が課されます。民法上の規定は以下のとおりです。
(遺言書の検認)
第千四条 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
3 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
(過料)
第千五条 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。
「封印」とは、文字どおり遺言書の入っている封筒の封じ目に押印されていることを意味します。押印される必要がありますので、単に糊付けされているだけでは、封印には当たりません。秘密証書遺言の場合には、遺言書に押印された印鑑と同一の印鑑で封印することが要件とされていますが、自筆証書遺言の場合は、必ずしも同一の印鑑でなくともかまいません(自筆証書遺言では封印は要件ではありません)。
上記のとおり、検認手続きを怠ることに加えて、封印されている遺言書を検認手続き以外の場で開封することも罰則の対象となりますので、自筆証書遺言の場合には封印することで、相続人等に無断で遺言書の内容を見られないようにするという効果もあります。また、これに関連して、遺言者が自筆証書遺言を封筒に入れるなどして、相続人等に内容を見られないようにする場合でも、必ず封筒の表面には「遺言書」などと記載して、遺言書が封入されていることを明らかにしておく必要があります。このような記載がないと、遺言書の発見が遅れる、または、最終的に発見されないという問題につながる可能性があります。
また、封印されている自筆証書遺言の封筒を誤って開封したとしても、それだけで遺言書自体が無効となる訳ではありませんので、仮に誤って開封をしてしまったとしても、必ず検認手続きを経るようにしてください。
検認の効果および注意点等に関する説明は以上です。
次回は、遺言の執行の具体的な内容や中心人物となりうる遺言執行者についてご紹介します。
酒井 勝則
東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了