第37回 自筆証書遺言

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江幡 吉昭

2020-01-07

第37回 自筆証書遺言

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前々回、前回と、遺言の効力などについて見てみました。
(参考)
第35回「遺言とは?」
第36回「遺言の効力」
今回から数回に分けて、遺言の書類についてお話しいたします。 

遺言の種類

さて、皆さんご存知のとおり、遺言の種類にはいくつかあります。覚えていらっしゃいますか?
普通方式の遺言としては3種類、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言ですね。実は、この3種類のほかにも特別方式の遺言というものもあって、ⓐ死亡危急者遺言、ⓑ伝染病隔離者遺言、ⓒ在船者遺言、ⓓ船舶遭難者遺言の4種類あります。

今回はその中から「自筆証書遺言」のお話です。
 

自筆証書遺言のおさらい

自筆証書遺言はどのような特徴を持った遺言だったかおさらいしてみましょう。
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の本文、日付および氏名を自書し、押印して作成する方式の遺言です。統計によるとおおよそ年間2万件ほど行われているそうです。

自筆証書遺言の最大のメリットは、誰にも知られずに遺言書を作成することができる(内容のみならず、遺書の存在自体を隠しておくことができる)ことや、遺言書作成の費用がほとんどかからないことが挙げられます。反対にデメリットとしては、方式不備で遺言書としての効力が無効とされる危険性が高いこと、遺言書が発見されないリスクがあること、偽造・変造・紛失・隠匿・破棄などのリスクがあること、家庭裁判所による検認手続きが必要なこと、などがあります。

余談ですが、遺言の話の中でたびたび出てくる、この「検認」ってどんなことなんでしょうか?
検認について家庭裁判所のHPにはこう記されています。
『遺言書(公正証書による遺言を除く。)の保管者又はこれを発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言書を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。また、封印のある遺言書は,家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。検認とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続きです。遺言の有効・無効を判断する手続きではありません』(家庭裁判所HPより一部抜粋)
つまり、遺言書の存在を周知するための手続き、ということになります。ちょっと分かりづらいかもしれませんが、例えば検認をした際に遺言書に署名がもれていたことに気付いた場合でも、検認の手続きにおいては、その場で無効を判断することにはなりません。実際に有効か無効かを判断するのは、あくまで「明らかに無効である遺言書以外は裁判で判断される」ことになります。本当に明らかな無効であれば、検認の手続きとは別に当事者間で無効として扱っても差し支えないとされています。



さて、話を戻します。今回はここから自筆証書遺言に関する事例をいくつか出してみます。皆さんはその事例における自筆証書遺言が、有効か無効か考えてみてくださいね。

 

自筆証書遺言ケーススタディー

【事例1】
90歳のAさんは、手元が自由に動かない。そこで、信頼のおける友人Mに依頼し、知人Oも立ち会ってもらった上で、自分が口頭で述べた通りにMが一言一句間違いなくパソコンで入力してプリントアウトしたものに、A自身が震える手で署名・押印をした。

この事例の場合、自筆証書遺言としては無効となります。遺言者は遺言書の全文を自分で書かなければならないとされているからです。
ただし、ちょうど1年前の2019年1月、制度が大幅に見直され、財産目録などはパソコンでもOKということになりました。なお、全部のページに自筆での署名捺印がなされていることが条件となります。
また、法務省令で定める様式のもので、封のされていない状態の自筆証書遺言であれば、法務局に保管をお願いできるようにもなります。(2020年7月から)


【事例2】
視覚障がい者のBさんが全文点字の遺言書を作成した。

この事例の場合も、無効となります。
理由は【事例1】と同じです。本当に遺言者が書いたものか、筆跡での判別ができないからです。あくまで自書でなければなりません。

【事例3】
80歳のCさんは手元が自由にならず満足に字が書けない。そこで、妻Wに後ろから自分の手を握らせて、遺言内容を声に出して言いながら手を動かし、遺書を作成した(いわゆる添え手遺言)。この遺言書には歪んだ字が一部にみられるが、一部には達筆な字もみられ、概ね整った字で本文が整然と書かれていた。

この事例では、遺言書は無効という判断が下されました。添え手とはいえ、実質的には妻W自身が字を書こうとする意志に基づきこの遺言書が作成されたものであり、遺言書の要件(自書)を欠いているため、という理由でした。

【事例4】
①日付の自書に「自分の85歳の誕生日」と記載した。
②日付の自書に「自分の定年退職の日」と記載した。
③日付の自書に「2018年6月吉日」と記載した。

①は有効、②も有効、③は無効です。
日付については、年月日まで客観的に特定できるように記載しなければなりません。

【事例5】
小説家Dさんは執筆の際はペンネームを利用している。この度遺言を作成するにあたり、署名については世間に広く知れ渡っている自らのペンネームを記載した。

氏名は遺言者を特定するものであるので、戸籍上の氏名でなくても、通称・雅号・ペンネームでもよいとされています。苗字・名前の一方しか書かなくても遺言者が特定できるものであればよいそうです。

【事例6】
Eさんは自筆証書遺言を作成するにあたり、日付・氏名記入後に、印章ではなく指印にて押印した。なお、Eさん死亡後に対照すべき印影(指印)は残っておらず、本人の指印か否かは確認できない。

押印は「指印」でもよいとされています。現在の日本の慣行や法意識に照らし、指印があれば印章による押印があることと同等の意義を認めているため、機能において欠けるところがないため、という理由が添えられています。
 

 

自筆証書遺言まとめ

以上の6つの事例のように、自筆証書遺言は遺言者が全文を記載するため、専門家などに相談しないまま作成すると、思いがけないところで要件を満たさない事項が出てきてしまうことがあります。せっかく作った遺言書が無効と判断されないよう、しっかりとした理解の上で作成しなくてはいけませんね。この遺言相続ドットコムをご覧になっている皆さんが、そのためのお手伝いをすることができたら、とても素晴らしいことだと思いませんか。

 

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