「遺産分割協議書って何?」
「作り方も分からないし、面倒くさそう・・・作らなくてもいい?」
聞き慣れない言葉ですし、このように思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、遺産分割協議書の作成は、相続を語るにあたっては欠かせない、とても重要なことなのです。
遺産分割協議書がないと、不動産や車などの相続財産の名義変更、預貯金の払い戻しなど、必要な手続きが何もできないままになってしまいます。
長い人生のうちで、遺産分割協議書を作成する機会は、せいぜい一度や二度の方がほとんどでしょう。
ただ、遺産分割協議書はとても大切なもの。
「遺産分割協議書とはどんなもので、何のために必要なのか」一緒に考えてみましょう。
遺産分割協議書とは?
そもそも遺産分割協議書とはどんな書類なのでしょうか?
相続が発生したとき、相続人が一人だけならその人がすべての遺産を相続しますが、相続人が複数いたら、誰がどの遺産を相続するのかを決めなければなりません。
そこで、法定相続人が遺産の分け方について話し合い、全員で合意した結果をまとめた書面が遺産分割協議書です。
法定相続人が合意した内容を明らかにする「合意書」としての性質と、対外的に“遺産分割協議が終了した”という「証明書」(=証拠)としての性質があります。
「合意書」としての性質があるので、ある相続人が後から遺産分割協議書の内容と異なる主張をすることは許されません。もし裁判になった場合は、裁判上の証拠としても利用されます。このように、紛争(争う族)の蒸し返しを防ぐ効果があるのです。
一方「証明書」として、遺産分割協議書を法務局や銀行などに提示することで、不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどができるようになります。
遺産分割協議書はどんなときに使うの?
a.金融機関での預貯金の払い戻し
相続財産には必ずといっていいほど預貯金が含まれますが、相続人が払い戻しをしたり、名義変更をしたりしなければなりません。そのためには遺産分割協議書が必要です。(後ほどご説明しますが、遺言書があれば、遺産分割協議書を作成する必要はありません。以下、b.不動産の相続登記 ~ e.相続税の申告の場合も同様です。)
遺産分割協議書がなければ、金融機関は原則として預金の払い戻しには応じてくれません。(ちなみに、2019年7月1日からの法改正により、一定額までは払い戻しを受けることができるようになりましたね。)
b.不動産の相続登記
相続財産の中に建物や土地といった不動産が含まれていたら、相続人名義に変更する(登記する)必要があります。その際には、法務局に遺産分割協議書を提出しなければなりません。遺産分割協議書がなければ、法定相続人全員の法定相続分に応じた共有登記しかできません。つまり、不動産を法定相続分に応じて共有登記してよいのであれば遺産分割協議書は不要ですが、特定の相続人が特定の不動産を相続する場合や、法定相続分とは異なる割合で共有にする場合などには、その内容が記載された遺産分割協議書の提出が必要になります。
c.車の名義変更
相続財産に車があれば、その名義変更も必要です。その際、陸運局に遺産分割協議書を提出する必要があります。
d.株式の名義変更
遺産の中に株式があれば、相続人への名義変更が必要です。その際にも証券会社(上場株式の場合)や株式発行会社(非上場株式の場合)に対して遺産分割協議書を提示しなければなりません。
e.相続税の申告
相続税を申告する場合にも遺産分割協議書が必要です。
(遺産分割協議書も遺言書も)なければ法定相続分に従った申告しかできませんし、(遺産分割協議書か遺言書の)提出が要件となる配偶者控除や小規模宅地の特例などの適用を受けることができません。(ただし、相続税の申告の際に、申告書とともに「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておき、実際に3年以内に遺産分割を行えば、特例の適用を受けることができます。)
その結果、相続税が高額になってしまうことにもなるのです。
遺産分割協議書の作り方
遺産分割協議書を作成する際には、どのような紙を使っても構いませんし、パソコンを使っても構いません。「遺産分割協議書」というタイトルを書いて、合意した遺産分割の方法を一つ一つ記載していきます。
すべて書けたら最後に相続人全員が署名押印をします。複数ページに及ぶ場合には、割印も必要です。印鑑は実印を使用することをおすすめします。
ポイント①:署名は自筆にすべき
本文をパソコンで作成したとしても、相続人の住所や署名は、それぞれの相続人の自筆にすることをおすすめします。そうでないと、後になって相続人が「署名していない」と言い出す可能性がありますし、遺産分割協議書の証明力が低くなってしまいます。パソコンで記名すると、第三者が簡単に遺産分割協議書を偽造することもできてしまいます。
ポイント②:遺産分割協議書の押印は実印で
遺産分割協議書を作成するときには、必ず押印が必要です。このとき、「実印で押印しないといけないのか?」という疑問を持つ人も多いことでしょう。
まず、遺産分割協議書が有効になるかどうかというレベルで言うと、実印でなくても構いません。しかし、実印で押印しないと、後に相続人が「自分で押印したものではない」と言い出す可能性があります。先ほど、パソコンでの記名よりも自筆での署名をおすすめしたのと同じことです。
また、法務局で相続登記の申請をするときには、実印で押印した遺産分割協議書と印鑑証明書が必要になりますから、認印で押印してしまうと、後に実印を押印したものを作り直さないといけなくなります。
このような問題もあるので、遺産分割協議書の押印は実印で行い、全員分の印鑑証明書を取得して添付しておくとよいでしょう。
ポイント③:相続人全員が1通ずつ保管する
遺産分割協議書を作成するとき、何部作成するのがよいのでしょうか。法律的な決まりはもちろんありませんが、相続人の人数分を作成することが一般的ですし、そうすることをおすすめします。
遺産分割協議書は、相続人全員が合意して署名押印したものですから、相続人全員が利害関係を持ちます。
また、それぞれの相続人が、自分の相続した遺産についての相続手続きをしないといけませんが、その際に遺産分割協議書が必要になることが多いです。そこで、自分が何らかの遺産を相続するときには自分の分をもらっておくべきですし、何の遺産ももらわない場合であっても、もらっておいた方がよいでしょう。手間であっても遺産分割協議書は人数分作成し、相続人全員が所持するようにしましょう。
ポイント④:相続人に認知症の人がいる場合
相続人の中に認知症の人がいる場合の遺産分割協議書の作成方法を確認しましょう。
認知症の本人に署名押印してもらっても、有効な遺産分割協議書を作成することができないことがあります。
民法上、有効に法律行為をするためには、最低限の事理弁識能力である意思能力が必要です。
ところが、認知症が進んだ人は、この意思能力を失っていることがあるため、有効に法律行為をすることができず、遺産分割協議を行うことができないのです。意思能力のない認知症の人が署名押印した遺産分割協議書は無効となります。
この場合、認知症の相続人のために成年後見人を選任しなければなりません。成年後見人とは、判断能力が低下した人の財産を管理する人のことです。成年後見人が選任されたら、その後見人によって、認知症の相続人の代わりに遺産分割協議書に署名押印をしてもらえば、有効な遺産分割協議書を作成することができます。
遺産分割協議書を作成するタイミングと流れ
遺産分割協議書を作成するタイミングは、遺産分割協議が成立したときです。遺産分割協議書を作成するためには、遺産分割協議によって相続人全員が合意することが不可欠です。相続人に争いがある状態では、遺産分割協議書を作成することができません。そのための手続きの流れを簡単に見てみましょう。
■相続人調査をする
相続が発生したら、まずは法定相続人を確定しなければなりません。このことを相続人調査といいます。
相続人調査をするときは、被相続人が生まれてから亡くなるまでのすべての戸籍謄本や除籍謄本、改正原戸籍などを収集します。これが結構大変な作業になることが多いです。
■相続財産調査をする
相続人調査が終わってすべての相続人が明らかになったら、次は相続財産の調査も必要です。具体的にどのような財産が残されているかを調べます。例えば、被相続人の家の中に現金や預金通帳がないかを調べたり、被相続人あての郵便物を点検して、取引をしている金融機関がないかなどを調べます。不動産については、市役所に行って固定資産課税台帳(いわゆる名寄せ帳)で確認したりします。
■遺産分割協議(話し合い)をする
相続人と相続財産の調査が終わったら、相続人全員に連絡をして、遺産分割協議を開始します。話し合いの方法は特に決まっておらず、どこかに集まって直接会って話をしても構いませんし、手紙や電話、メールなどを利用しても構いません。
遺産分割協議書を作らないとどうなる?
遺産分割協議書を作成しないと、どのような問題があるのでしょうか?
遺産分割協議書は法律によって作成が義務付けられているものではないので、作成しなくても罰則はありません。
しかし、遺産分割協議書がないと、不動産や車、株式などの相続手続きが進められないので困ってしまいます。
特に不動産の場合、登記をせずに放置していると、一部の相続人が勝手に法定相続人全員の共有登記にしたり、自分の持分を第三者に売却されたりしてしまいます。
また、登記をせずに放置していて相続人が死亡して“次の相続”が発生すると、共有者が次の世代にまで及ぶため、名義がどんどん増えて、何が何だか分からない状態になってしまいます。そして共有者が多くなればなるほど、売却するのも非常に困難になってしまいます。
そうならないためにも、相続が発生したら速やかに遺産分割協議を行い、合意ができたらすぐに遺産分割協議書を作って各種の相続手続きを終えておく必要があるのです。
さらに、遺産分割協議書にはトラブル(争う族)の防止効果があります。
きちんと遺産分割協議書を作成していれば、後に一部の相続人が「やっぱり納得できない」「そんな合意はした覚えはない」などと言って紛争を蒸し返すのを防ぐことが可能になります。遺産分割協議書には蒸し返そうとする相続人の署名押印があるわけですから、そのような勝手な言動は通用しなくなります。
遺産分割協議書を作らなくてもよいケースとは
相続が発生しても、以下のとおり遺産分割協議書を作成しなくてもよいケースがあります。
■遺言によって、すべての遺産分割方法について指定があるとき
遺言によって、すべての遺産の遺産分割方法(相続方法)が定められているときには、その内容どおりに遺産が相続されます。遺言書を使って不動産の名義変更などの各種の相続手続きを進められるので遺産分割協議書は不要です。
ただ、遺言があっても、一部の相続財産についての遺産分割方法しか指定されておらず、残りの遺産については法定相続人が話し合いで相続方法を決めないといけない場合には、その残り分について遺産分割協議が必要になりますし、遺産分割協議書を作成する必要があります。
また、すべての遺産について遺言による相続分の指定が行われていても、相続人全員が合意して遺言と異なる分割方法を定めることは可能です。その場合には、やはり遺言があっても遺産分割協議書を作成しなければなりません。
■法定相続分どおりに相続するとき
すべての相続財産を法定相続分に応じて分けても構わない場合には、遺産分割協議書は不要です。
例えば、相続財産を売却し、その代金を法定相続分どおりに分配するケースです。不動産や車を売却する場合には、わざわざ遺産分割協議をせずに法定相続人が共同して売却することが可能です。(ただし、売却代金の分配が法定相続分と異なる場合は、贈与税が発生する場合がありますので、遺産分割協議書を作成した方が無難です。)
■相続人が一人だけのとき
相続人が一人の場合には、遺産分割協議はしません(できません)し、遺産分割協議書も不要です。
もともと複数の相続人がいたけれども、他の相続人全員が相続放棄をして一人になったときにも、遺産分割協議書は不要です。
遺産分割協議書まとめ
遺産分割協議書は、不動産の名義変更や預貯金の払い出しなどの相続手続きを進める際に、ほぼ欠かすことができない重要な書類です。また、相続人の間におけるトラブル防止にも役立ちます。
作成しなくても罰則はありませんが、遺言書がなく複数の相続人がいるケースでは、できるだけ早く遺産分割協議を終えて作成するようにしましょう。
自分たちで遺産分割協議書を作成するのが難しいと思ったら、弁護士や司法書士に相談して作成してもらうこともできます。もちろん、相続終活専門協会にもご相談くださいね!