第17回 相続分の指定・遺産分割方法の指定①

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酒井 勝則

2019-09-06

第17回 相続分の指定・遺産分割方法の指定①

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 前回、遺贈についてご紹介しましたが、今回は、遺言による相続分の指定と遺産分割方法の指定ついてご紹介します。
 遺贈、相続分の指定、遺産分割方法の指定は、いずれも複数の相続人や受遺者がいる場合に、遺言によって財産の帰属先や分割の指針を決定するという点で類似の効果を有します。他方で、異なる効果も有しているため、類似点と相違点の両方をきちんと理解しておく必要があります。
 以下では、相続分の指定と遺産分割方法の指定の類似点と相違点を見ていく前提として、まずは両方の制度の概要をご説明したいと思います。 

相続分の指定とは?

 遺言による相続分の指定とは、遺言者の意思に基づいて複数の相続人の中の特定の者の相続分について法定相続分と異なった割合を定めることをいいます。
民法上の規定は、以下のとおりです。

(遺言による相続分の指定)
第九百二条 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。


 上記規定のとおり、相続分の指定は、遺言でする必要がありますが、指定する人を、被相続人ではなく第三者に委託することもできます。この相続分の指定を遺言ですべきとされている理由は、被相続人の生前の意思表示による指定の場合、相続人間での紛争が発生する可能性があるからです。   

相続分の指定の具体的な方法とは?

 相続分の指定は、相続すべき割合を特定しなければなりません。遺産の2分の1とか3分の1とか、20%など相続財産の全体に対する割合で示されることになります。一部の相続人の相続分を指定している場合、他の相続人の相続分は、法定相続分によることになります。
 例えば、被相続人(遺言者)たる夫が、6000万円の財産を残して死亡し、相続人として妻と3人の子ども達A、B、Cが相続するというケースで、Aの相続分は、遺産の2分の1とするという内容の遺言がある場合を考えてみます。
 法定相続分は、妻が2分の1、子ども達A・B・Cが6分の1ずつとなります。この法定相続分について、相続分の指定の効果により、Aの相続分が2分の1に増加すると、残りの2分の1を、妻と子ども達B・Cで分け合うことになります。つまり、妻と子二人の法定相続分は、妻が2分の1、子2人が4分の1ずつとなることから、今回のケースでの妻の相続分は4分の1(2分の1×2分の1)、B・Cの相続分は8分の1ずつ(2分の1×4分の1)となります。
 この例では、一人の相続分を増加させる内容の指定でしたが、相続分を減少させる内容の指定もすることは可能ですし、複数人の相続分の指定をすることも可能です。
 相続分の指定の効果として、上記のような法定相続分の割合を修正する効果が生じ、これにより相続人間の遺産分割の割合の基準が決まります。もっとも、相続分の指定によるとしても、各相続人に対して、個別の財産を帰属させる訳ではないため、最終的に遺産分割協議などで、どの財産を誰に帰属させるかを決定する必要があります。 

遺産分割方法の指定とは?

遺言による遺産分割方法の指定とは、遺産分割における財産の帰属先を決定する方法の一つです。遺産分割方法の指定に関する民法上の規定は、以下のとおりです。

(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。


 相続分の指定同様、遺産分割方法の指定も、遺言でする必要がありますが、指定する人を、第三者に委託することができます。遺言ですべきとされている理由も、相続分の指定と同様で、紛争を回避することにあります。 

遺産分割方法の指定の具体的な方法とは?

 上記のとおり、民法上は、遺産分割の方法を定めることができるということのみ規定されており、具体的な方法については、規定がありません。
 遺産分割方法の指定には、「①単に分割の方法を指定する場合」のほか、「②具体的にどの財産をどの相続人に帰属させるかを指定する場合」があります。
 ①の例としては、不動産を分筆したり、土地と建物に分けたりするなど、特定の財産を現物のままで分割する方法(現物分割)や、特定の財産を売却して得られる金銭を分割する方法(換価分割)、特定の財産を特定の相続人が取得する代わりに他の相続人にその相続分に応じた金銭を支払う方法(代償分割)などがあります。
 ②の例は、被相続人(遺言者)が1000万円の価値のある甲土地を含む6000万円の財産を残して死亡し、相続人として3人の子ども達A、B、Cが相続するというケースにおいて、甲土地をAに分割するように指定した遺言が残されていた場合が考えられます。このような遺言は、Aには甲土地しか与えないという特別な事情がない限り、Aの法定相続分(3分の1)を変更するものではなく、Aの2000万円の取り分(6000万円×3分の1)の中に甲土地を割り当てるという趣旨に解釈されます。そして、A,B、Cは、甲土地を除いた5000万円の財産について、Aが取り分の一部として1000万円の甲土地を取得したことを前提として、遺産分割協議をすることになります。

 相続分の指定と遺産分割方法の指定の概要は以上のとおりです。
次回は、相続分の指定と遺産分割方法の指定が組み合わさった場合や、いわゆる相続させる旨の遺言について見ていきます。
  

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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