
遺産分割協議の有効性が問題となる場合について
はじめに
前回に続いて、遺産分割における諸問題についてのまとめ解説の第7回目となります。
前回に引き続き、遺産分割協議の有効性が問題となる場合について解説いたします。
相続人全員が遺産分割協議に参加しない場合
遺産分割協議は、共同相続人全員の合意によって初めて有効に成立する契約行為であるため、共同相続人全員が参加しなければなりません。よって、一人でも参加していない共同相続人がいる場合、そのような遺産分割協議は原則として無効となります。この場合、遺産分割協議に参加しなかった共同相続人を含めて再度協議を行う必要があります。
なお、共同相続人全員が参加した遺産分割協議として認められるためには、必ずしも共同相続人全員が一堂に会する必要はなく、書面や個別のやりとりで協議の内容に全員が合意し、遺産分割協議書に署名・捺印すれば、有効な遺産分割協議となります。
もっとも、以下の場合は、共同相続人全員が遺産分割協議に参加しない場合であっても、遺産分割協議が有効とされる余地があります。
(1) 胎児の場合
遺産分割協議当時に胎児が存在している場合、胎児は、相続については、既に生まれたものとみなされるため(民法第886条第1項)、胎児にも相続権があります。よって、胎児を除外してなされた遺産分割協議は無効となります。もっとも、胎児が死体で生まれたときは、同条項の適用がありませんので(民法第886条第2項)、この場合は、胎児を除外してなされた遺産分割協議も有効と解されます。
(2) 失踪宣告の取消があった場合
共同相続人が失踪宣告を受けていたために協議から除外され、その余の共同相続人全員の合意により遺産分割協議が成立した後に失踪宣告が取り消された場合、失踪宣告が初めからなされなかったことになりますので、当該遺産分割協議は相続人を除外してなされたものとして無効となる可能性があります。もっとも、遺産分割協議に参加した共同相続人が、その失踪宣告が事実に反すること(失踪者が生存していること)を知らなかった場合、有効となると余地があると解されています(民法第32条第1項)。
(3) 死後認知された相続人
遺産分割協議が成立した後に、死後認知判決又は遺言認知により相続人の資格を取得した者がいる場合であっても、すでに成立した遺産分割協議は無効とはなりません。ただし、死後認知された相続人は、自らの相続分について、他の共同相続人に対して価額支払請求権を取得することになります(民法第910条)。
相続人以外の者が遺産分割協議に参加した場合
共同相続人以外の者が遺産分割協議に参加した場合の遺産分割協議について、裁判例は以下のように判断しています。
(1) 原則:一部無効
裁判例(大阪地判平成18年5月15日)によれば、共同相続人でない者が参加して行われた遺産分割協議は、原則として、その共同相続人でない者が遺産を取得した部分に限って無効となります。したがって、相続人全員が参加している限り、遺産分割全体を無効にする必要はなく、資格のない者に配分された財産についてのみ、改めて相続人全員で協議することになります。
(2) 例外:全部無効
他方で、上記の裁判例は、例外的に遺産分割協議の全部が無効となる場合として、共同相続人でない者の遺産取得に係る部分だけを無効とすると、著しく不当な結果を招き、正義に反する結果となる特段の事情がある場合を挙げています。同裁判例によると、当該共同相続人でない者が取得するとされた財産の種類や重要性、当該財産が遺産全体の中で占める割合等の諸般の事情を考慮して、当該共同相続人でない者が協議に参加しなかったとすれば、協議の内容が大きく異なっていたであろうと認められる場合には全部無効と判断すべき特段の事情があると判断しています。
このように遺産分割協議の全部が無効とされる場合、共同相続人全員で遺産分割協議をやり直す必要があります。
なお、共同相続人以外の者であっても、以下の場合は遺産分割協議の当事者となったり、遺産分割協議に参加することが認められています。
(1) 包括受遺者
包括受遺者とは、遺言によって「遺産の3分の1を遺贈する」といったように、財産の全部または一部の割合を指定して遺贈を受けた者をいいます。包括受遺者は、相続人と同等の権利義務を持つため、遺産分割協議への参加が必要となります。
また、このような包括受遺者の性質に鑑みれば、包括受遺者を除外して行われた遺産分割協議は無効となります。
(2) 相続分の譲受人
相続分の譲受人とは、本来の相続人からその相続分を譲り受けた人をいいます。相続分の譲受人は、相続分を譲った相続人の代わりに、その相続分に相当する遺産全体に対する包括的な権利と義務を承継することになりますので、遺産分割協議の当事者となります。
なお、相続人が、その全ての相続分を譲り渡した場合、遺産分割協議の当事者から離脱します。
(3) 法定代理人・特別代理人
共同相続人に未成年者や成年被後見人がいる場合、共同相続人本人が直接遺産分割協議に参加できないため、その法定代理人(親権者や成年後見人など)が本人に代わって遺産分割協議に参加します。ただし、法定代理人も相続人である場合は、本人と法定代理人の利益が相反することとなるため、家庭裁判所で特別代理人などの選任が必要となり、かかる特別代理人が遺産分割協議に参加する必要があります。
(4) 委任代理人
共同相続人から遺産分割協議を行うことを委任された代理人も協議に参加できます。









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