第16回 遺産分割まとめ②

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山下 昌彦

2025-02-10

第16回  遺産分割まとめ②

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はじめに

前回に続いて、遺産分割における諸問題についてのまとめ解説の第2回目となります。

遺産分割の対象となる財産

遺産分割の対象となる財産(遺産)は、原則として下記に該当する財産である必要があります。
① 相続開始時に存在したこと
財産が遺産分割の対象となるためには、被相続人の死亡時(相続開始時)に存在したことが必要となります。
例えば、相続人の一人が被相続人の死亡前に被相続人名義の預金を引き出した場合、相続開始時に存在していないため、原則として遺産分割の対象にはなりません。

② 遺産分割時にも存在すること
例えば、相続開始時には存在していた相続財産である家屋が火災により滅失した場合、当該家屋は遺産分割時には存在しないため、遺産分割の対象外となります。

③ 未分割財産であること
未分割財産とは、遺言や遺産分割等により個別的な帰属が定まっていない財産のことをいいます。
例えば、被相続人が特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言をしていた場合、当該財産は特定の相続人への帰属が定まっているため、遺産分割の対象外となります。
また、相続人間で遺産分割協議が有効に成立している場合、当該財産については個別的な帰属が定まっているため、遺産分割の対象外となります。

④ 積極財産であること
遺産分割の対象となるのは、積極財産、すなわち資産の部分となります。消極財産である負債は、相続により各相続人の相続分の応じて当然に承継されるので、遺産分割の対象外となります。

具体的検討

以下、遺産分割の対象となる財産に該当するか否かについて具体的に解説していきます。

(1) 一身専属権×
民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものはこの限りではない。」と定めています。よって、その性質等により被相続人のみに専属的に帰属する法的地位や権利については、相続財産に含まれず、よって遺産分割の対象になりません。具体的には下記のとおりです。

① 民法に規定があるもの
■ 代理権(民法111条1項)
■ 使用貸借における借主の地位(民法599条)
■ 雇用契約上の地位(民法625条)
■ 委任契約における委任者の地位又は受任者の地位(民法653条)
■ 組合員の地位(民法679条)

② 解釈上一身専属性が認められているもの
■ 扶養請求権
■ 財産分与請求権
■ 生活保護法に基づく保護受給権
但し、一定額の請求権として具体化している場合(例えば、調停等により財産分与として具体的金額の給付が定められている場合)は、一身専属的な性質が消滅するため相続財産に含まれる点には注意が必要です。

(2) 不動産に関連する財産
① 不動産〇
不動産が遺産分割の対象財産に該当することについて争いはありません。

② 不動産賃借権〇
使用貸借契約と異なり、賃貸借契約の場合は借主の死亡により賃借権は消滅しないため、原則として不動産賃借権は、遺産分割の対象財産に該当します。
但し、公営住宅の場合、その使用権は遺産の対象とならないとする判例があるので、かかる場合は遺産分割の対象財産に該当しない点には注意が必要です。

(3) 預貯金
① 普通預金、通常貯金及び定期貯金〇
従来、金銭債権は相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという過去の判例を踏まえ、預貯金については、原則として遺産分割の対象財産に該当せず、相続人間で遺産分割の対象に含める旨の合意があった場合に限り、例外的に遺産分割の対象とすることができるとされていました。
しかし、平成28年12月19日の最高裁判決により「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当」と判示し、従前の判例を変更しました。

② 定期預金及び定期積金〇
定期預金及び定期積金について、最高裁は、前述の平成28年12月19日の最高裁判決を踏まえ、「共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはない」と判示しました。

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弁護士

京都大学法学部卒業
甲南大学法科大学院修了

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