第7回 遺言書の破棄・変更

第7回 遺言書の破棄・変更

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今回は、遺言書の内容が、塗りつぶされる、取り消し線が引かれる又は加筆されている等の修正が認められる場合の遺言書の効力について、ご紹介します。

1 誰による修正であるのか

遺言者の死亡後等、遺言者に確認できない状況で、内容が修正された遺言書が発見された場合、その修正を行った者が誰であるのかを特定することが重要です。
このためには、修正についての遺言者の署名・押印の有無・形状、遺言書の保管状況、遺言書の内容、生前の遺言者の意向等を考慮して、誰による修正であるのかを特定することが必要になりますが、特定が困難な場合も多くあると考えられます。
本記事では、遺言者が一度作成した遺言書(自筆証書)を、故意に自ら修正した場合を前提にご説明します。

2 遺言書の破棄

民法では、「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。」(民法第1024条前段)と規定されています。
したがって、「破棄」された部分については、撤回したものとみなされ、その部分の遺言の効力が生じないことになります。
遺言書の「破棄」には、遺言書の焼却、切断等といった形状自体の破壊だけでなく、文面の抹消も含まれると考えられています。

3 遺言書の変更

他方で、民法は、遺言書(自筆証書)の変更について、①変更の場所の指示、②変更した旨の付記、③署名、④変更場所への押印という全ての要件が充足された場合に、変更の効力が生じると定めています(民法第968条第3項)。
この方式に違反した変更がされた場合には、その変更の効力が生じず、変更前の遺言が有効であると考えらえています。
(過去の記事)
https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-169/

4 遺言書の破棄と変更の区別

そこで、遺言書の文字が抹消されていた場合、たとえば、(1)元の文字が判読不可能な程度に塗りつぶされていた場合、又は(2)一部の文字についてのみ取り消し線が引かれているが元の文字の判読が可能である場合、それが「破棄」又は「変更」のどちらに該当するのかを特定し、その特定の結果に応じて遺言書の効力を判断する必要が生じます。
この点については、一般的には、元の文字を判読できる程度の抹消であれば、「破棄」ではなく「変更」であると考えられています。
 この見解によると、(1)のケースでは塗りつぶされていた部分について「破棄」が認められ、その部分の遺言の効力は生じないことになります。
他方で、(2)のケースは「変更」に該当することになり、上記の要件が全て充足されているときはその部分の遺言の効力は生じないことになりますが、要件が充足されていないときには、「変更」の効力が生じずに元の遺言が有効となります。

5 個別事情に応じた判断の必要性

上記4では単純なケースについての一般的な考え方をご紹介しました。しかし、実際には様々な事情が考えられるため、修正内容、遺言書の状態、保管状況等の様々な事情を考慮して、修正をした者及び「破棄」・「変更」の区別等について、慎重に判断する必要があります。
この点についての参考判例をご紹介します。
遺言者により故意に遺言書の文面全体の左上から右下にかけて赤色ボールペンで1本の斜線が引かれていたが、元の文字が判読できる状態であった、というケースで、最高裁は、その行為の一般的な意味に照らして、遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失わせる意思の表れとみるのが相当であり、「故意に遺言書を破棄したとき」に該当すると判断しました(最高裁平成27年11月20日第二小法廷判決)。

6 遺言書の修正の留意点

上記のとおり、遺言書が修正された場合には、遺言の効力について個別の事情に基づく様々な検討が必要になる可能性があります。
したがって、遺言書の修正をする際には、その修正の方法について、慎重に検討し、事後的な紛争が生じないようにすることが望ましいです。たとえば、元の遺言書を完全に廃棄して、新たに公正証書遺言を作成する等の方法が考えられます。

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弁護士

早稲田大学法学部卒業
早稲田大学法科大学院修了

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