第19回 相続の放棄

第19回 相続の放棄

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前回は「相続の放棄・承認の総論」をお話ししました。今回は相続が発生した際に相続人が選択する「相続放棄」「限定承認」「単純承認」の3つの中から「相続放棄」のお話をしますね。
まず、言わずもがな、相続人は相続の効果を確定的に消滅させる、つまり「全て相続しない」という意思表示をすることが出来ます。これが相続放棄です。

相続についてある程度勉強した方は、以下の事実をご存知だと思います。
『相続放棄をしたら、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものとみなす(民法939条)』『相続放棄をした人に子(直系卑属)がいても、代襲相続は出来ない』
『相続放棄の意思表示は、相続の開始があったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなくてはいけない』『相続放棄は相続人が単独で行うことができる』また、前回でも『一度申述した放棄は撤回できない』ということもお話しましたね。

今回は相続放棄について、ちょっとした疑問を出してみましょう。

<疑問1>親権者(法定代理人)が未成年の子どもを代理して相続放棄することは出来るのか?
<疑問2>相続人全員が相続放棄したらどうなるのか?

この2つの疑問、ちょっと気になりませんか?
まず、疑問1について以下の<ケース1>で考えてみましょう。

<ケース1>
Aには、妻Wと子X(5歳)がいて、Aが死亡した。WがXを代理して相続放棄の意思表示をした。

相続放棄は意思表示なので、未成年の子どもの相続放棄については、民法において能力制限についての制約がかかってきます。親権者が子どもを代理して相続放棄の意思表示をするときは、他の民法上の規定と同じくそれが利益相反行為にならないか検証が必要になります。利益相反行為とは「当事者間で利益が相反する行為」のことで、民法では各々の利益を守るために,一方が他方を代理したり、一人が双方を代理すること(双方代理)を禁止しています(民法108条)。
<ケース1>の場合、親権者のWが未成年の子Xを代理して、相続放棄の意思表示をすることで、もともとW:X=1/2:1/2だった法定相続分が、W:X=1:0となってしまいます。Xが相続放棄(Wによる代理)することによってWの取り分が増えていますので、まさしく利益相反行為にあたり、相続放棄の効力はなくなります。
このようなケースについて、その多くは、未成年に財産の管理は出来ないから自分が管理しておこう、という親権者としての動機や内心の事情があるでしょうが、利益相反については形式的に判断するそうですので、お気を付け下さいね。

次に<疑問2>の『相続人全員が相続放棄したらどうなるのか?』についてです。
前提として民法上、相続順位は配偶者→第1順位→第2順位→第3順位と相続資格が移っていきます。しっかりと相続放棄をする旨を後順位の人に伝えないと、「知らないうちに借金が負わされた!」というトラブルになりますので注意が必要です。
本題に入りますね。その相続人全員が相続放棄をして相続人が1人もいなくなってしまうことは法律上の問題はありません。では相続人全員が相続放棄をした際、被相続人の財産または借金はどうなってしまうのでしょうか。

当たり前の話ですが、相続人全員の相続放棄によって相続人がいなくなった瞬間に、被相続人の財産や借金が消えてなくなるわけではありません。その後にいくつかのステップを踏んでから、最終的にはプラスの財産が残れば「国に帰属」することになります。
そのステップとは「相続財産管理人の選任(家庭裁判所による選任)→債権申立の公告→相続人捜索の公告→相続人不存在の確定→特別縁故者の確認→国に帰属」という流れです。
では、具体的に見ていきましょう。相続人全員が相続放棄した相続財産は、家庭裁判所が選任した相続財産管理人によって管理されます。次に、相続財産管理人は、被相続人に対する債権者などに決められた期間内に申し出をするよう公告を行い(債権申立の公告)、申し出た債権者などに相続財産から弁済を行います。その後に財産が残った場合、相続人捜索の公告を行い、公告期間終了時までに相続人が出てこなければ、相続人不存在が確定となります。相続人不存在が確定したときは、特別縁故者(被相続人と長い間同居していた、療養看護に尽力した、などの人)がいれば、財産分与を申し立てることができます。申し立ててきた人について裁判所が特別縁故者と認めたときは、相続財産が特別縁故者に引き継がれます。そして、最終的に残った相続財産があったときは、相続財産管理人が国庫へ帰属させる手続きを行います。こんな長いステップを踏むんですね・・・。

では、最後に問題を出します。

2017年度において、相続人不存在で国庫に納められた財産の総額はいくらぐらいだったでしょうか?

①約1億円 ②約10億円 ③約50億円 ④約100億円 ⑤約500億円

答えは・・・なんと⑤の約500億円です!近年の単身の高齢者人口と生涯未婚率の上昇、少子高齢化が進んだことが背景になっているんでしょうね。

最後になりますが、皆さんもご存知だと思いますが、借金には連帯保証が付きものですよね。相続放棄の件で気を付けなくてはいけないことの1つは、相続人たる立場の人が連帯保証人になっていた場合です。たとえば、子が親の借金の連帯保証人になっていて、親がその借金を残したまま亡くなった場合、その子は相続人の立場として相続放棄をしたとしても、連帯保証人としての借金の支払い義務は免れない、ということになります。由々しきお話ですが、実際に多く発生していることなんです・・・。
それでは、次回は限定承認についてお話しします。

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