第11回 公正証書遺言(その2):公正証書遺言の要件

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酒井 勝則

2019-03-04

第11回 公正証書遺言(その2):公正証書遺言の要件

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はじめに

 前回から、遺言の一般的な作成方法として規定されているものの一つである公正証書遺言について、ご説明しております。公正証書遺言の特徴は、遺言者が遺言の趣旨を口頭で述べ、公証人がこれを筆記するなどして公正証書を作成することによって行う点にあります。
 それでは、公正証書遺言は、どのような要件のもとで作成される必要があり、作成する上で具体的にどのような問題があるのでしょうか。 

民法が規定する公正証書遺言の要件とは?

 まずは、公正証書遺言に関する民法上の規定をおさらいしておきましょう。公正証書遺言の作成についての民法の規定は、以下のとおりです。

(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 一 証人二人以上の立会いがあること。
 二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
 三 公証人が、遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
 四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自がこれに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
 五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと


 上記の条文からも分かるとおり、公正証書遺言作成の明文上の要件は、①証人二人以上の立会いがあること(証人要件)、②遺言者が遺言の趣旨を口授、つまり直接口頭で述べること(口授要件)、③公証人が遺言者の口授を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させなければならないこと(筆記等要件)、④遺言者及び証人が、筆記が正確なことを承認した後、各自これに署名押印しなければならないこと(遺言者・証人の署名押印要件)、⑤公証人が、その証書が上記①から④の方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名押印することの5つです。
以下、上記要件のうち、公正証書遺言においてしばしば問題となる、①証人要件、②口授要件、③筆記等要件を個別に検討してきます。 

証人要件で問題となることとは?

 公正証書の作成には、2人以上の証人が、遺言作成の最初から最後まで立ち会う必要があります。これは、遺言者が真意に基づいて遺言を公証人に口述したことを担保する必要があるからです。この証人となれる人には一定の要件があり、⑴未成年者、⑵遺言者の推定相続人・受遺者、⑶⑵の配偶者および直系血族、⑷公証人の配偶者および4親等内の親族、書記および使用人は、証人となることができません(この者を欠格者ということがあります。)。
 仮に、証人2人が公正証書遺言の作成に立ち会ったところ、その内の1人が欠格者に該当した場合(例えば、証人の内の1人が遺言者の妻だった場合)、その者は、法律上の証人として扱われず、証人要件を充足しない結果、当該公正証書遺言は無効となってしまいます。もっとも、たとえ欠格事由を有する者が証人として立ち会っていたとしても、欠格事由のない証人が2人以上立ち会っていれば、原則として、当該公正証書遺言は有効であり、例外的に、欠格者の同席によって遺言内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることが妨げられたりするなどの特段の事情があれば、無効となる可能性があります。
 また、上記欠格事由に当たらないとしても、証人としての職務を果たすことができない者は、事実上、証人となることができません。例えば、証人は、署名することが求められていることから(証人の署名押印要件)、自署できない者は、証人となることができません。 

口授要件で問題となることとは?

 口授とは、直接口頭で述べることを意味します。口頭で述べればよいので、たとえ外国語であっても、通訳が立ち会い、日本語で公正証書を作成することが可能です。他方で、口頭で述べる必要があることから、単なるジェスチャーをしたに過ぎない場合には、口授要件を充足しません。
 過去に問題となった事例としましては、公証人からの問いかけに対し、何らの言葉を発することなく単に肯定・否定の挙動を示したのである場合、公証人による遺言証書の読み聞かせに対して手を握り返して反応したに過ぎない場合に、口授があったと認められず、その結果、遺言が無効となったというケースが存在します。
 なお、口がきけない人の場合でも、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳(手話通訳等)により申述し、又は自署(筆談等)によって、公正証書遺言を作成できることは、前回(第10回)の記事記載のとおりです(民法第九百六十九の二条)。 

筆記等要件で問題となることとは?

 公証人が、遺言者の口述内容を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせなければならない理由は、遺言者及び証人に筆記した遺言内容を確認させ、その内容の正確性を担保するためです。
 筆記に関しては、必ずしも遺言者の口述を一言一句漏らさず書き写す必要はなく、公証人自ら筆記する必要もありません。 

筆記と口授の順序は決まっているの?

 公正証書遺言の要件は、遺言者による口授の後に公証人による筆記が予定されています(要件②→③)。しかしながら、実務では、遺言者またはその依頼を受けた弁護士等が遺言の趣旨の下書きを公証人にあらかじめ交付し、これに基づいて公証人が事前に証書を作成し、これを遺言者が口授し、遺言者・証人に読み聞かせて、遺言者・証人が筆記の正確なことを承認するという手続きがしばしば取られます(要件③→②→④)。このように、筆記と口授の順序が、入れ替わったとしても、遺言者の真意の確保及びその内容の正確性の担保という要件が設けられた目的に沿うことから、遺言は有効とされております。

 次回は、特別方式の遺言について検討します。
 

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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