コロナ禍になり、ペットを飼い始める人が増えているようです。今回は、そんなペットに関する相続問題について、解説していきます。
<CASE>
Aは犬を1匹飼っている。Aは高齢であるため、自身の死後に犬の世話を誰かに託したい。どのような方法が考えられるか。
負担付遺贈
負担付遺贈とは、遺言によって、受遺者(遺贈を受ける者)に対して、財産を与える代わりに、一定の義務を負担させる行為をいいます。
たとえば、遺言によって、親族等に対して、自身の財産を遺贈する代わりに、ペットの世話をする義務を負わせるという内容の負担付遺贈を行うことができます。
もっとも、遺贈は、遺贈者(遺贈を行う者)の単独の意思表示のみによって行うものであるため、受遺者がその遺贈を放棄することが可能です(民法986条1項)。
(遺贈の放棄)
第九百八十六条 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
そのため、ペットの飼い主が、負担付遺贈の方法で第三者に対してペットの世話を任せる場合は、予め負担付遺贈に承諾するかどうかの意向を確認しておく必要があるでしょう。そうでないと、遺贈の放棄がなされた場合は、飼育者が不在となり、ペットの飼育問題が解決しないおそれがあります。
負担付死因贈与
負担付贈与とは、受贈者(贈与を受ける者)に対して、一定の義務を課す代わりに、財産を贈与することを受遺者と合意することをいいます。遺贈者の一方的な意思表示ではなく、双方の合意が必要である点に遺贈との違いがありますので、贈与の場合は、遺贈のように、後で受遺者に放棄されるおそれはありません。
具体的には、飼い主が、親族等との間で、財産を贈与するとともに、ペットの世話をする義務を負わせ、さらに、自らの死亡によって贈与の効力が生じるという内容の贈与契約(負担付死因贈与契約)を締結します。
もっとも、受贈者がペットの飼育等の負担を履行しているかどうかを第三者が監督する仕組みがなく、受贈者が財産を受け取った後、ペットの飼育が適切に行われるとは限りません。この問題は、負担付遺贈でも負担付死因贈与でも生じます。また、これらの方法を利用する場合、ペットの飼育が終わった後に、仮に財産が残ったとしても、その金銭は、受遺者、受贈者のものとなってしまいますので、ペットの飼育に限って財産を利用させることができない問題点もあります。
信託
信託とは、特定の者が一定の目的に従い、財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいいます(信託法2条1項)。
具体的には、委託者(財産を保有する者)が、受託者(財産を預けられる者)に対して、財産を預け、受託者が、委託者の定めた一定の目的達成のために、委託者又は受益者(委託者が定めた利益を受ける第三者)のために、財産を管理、運用等を行う制度が信託です。
これをペットの飼育に当てはめると、委託者は飼い主、受託者は財産(たとえば飼育にかかる金銭など)を管理する者、受益者は実際にペットを飼育する者になります。具体的には、飼い主(委託者)が、ペットの世話をしてくれる人を受益者として指定した上で,親族等(受託者)に対して、委託者の財産を適切に管理することを委託するとともに、ペットの世話をする者(受益者)に対して、ペットの世話に要する費用を交付する義務を負わせる内容で信託契約を締結することになります。
ペットの世話について信託を行うと、世話にかかる費用は、信託財産から賄われますので、確実にペットの飼育費を残して、ペットを第三者に託すことができます。また、信託財産を託された受託者は、信託財産の支出については、信託契約で決められた範囲でしか使うことができませんし、信託財産の利用状況のチェックに信託監督人をつけることもできますので、財産が散財するリスクを防止することができます。
日本では、ペットに対して遺産を相続することはできませんので、ペットの餌代や病院代などを貯蓄していたとしても、それらが当然にペットのために使われるわけではありません。
したがって、以上のような制度を利用し、安心してペットを預ける準備を行うことが重要です。