第53回 遺言執行者に就職した場合の対応(その③)

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益子 真輝

2022-09-27

第53回 遺言執行者に就職した場合の対応(その③)

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はじめに

今回も、遺言執行者について解説していきます。なお、前回と同様に、本解説については、令和4(2022)年4月1日時点における、民法を前提にしています。

<CASE>
Aは、既に夫とは死別し、子Cがいたものの、Aは、友人Xを遺言執行者に指定する内容の公正証書を作成しました。その後、A(被相続人)が死亡し、Xが遺言執行者に就任し、遺言執行に着手しようとしていました。しかし、相続人Cは、Aが遺言をした当時、Aには遺言を行うだけの判断能力がなかったと主張しています。
この場合に、Xは、遺言執行者として遺言執行を進めてよいのでしょうか。

遺言の有効性について

そもそも、遺言作成時には、遺言能力が必要となり(民法963条)、遺言者の真意に基づくものでなければなりません。過去の裁判例においても、「遺言には、遺言者が遺言事項(遺言の内容)を具体的に決定し、その法律効果を弁識するのに必要な判断能力(意思能力)すなわち遺言能力が必要である」(東京地判平成16年7月7日判タ1185号291頁)と判示されています。
しかし、高齢者が、遺言書を作成する場合も多く、時には、健康状態や精神能力の衰えから、家族や第三者に誘導されて遺言を作成する場合があります。
本件についても、相続人Cとしては、被相続人Aが「遺言を行うだけの判断能力がなかった」と主張し、遺言能力がないことから、遺言書が無効である旨主張しています。そのような場合に、遺言執行者はどのような対応をとるべきでしょうか。

遺言執行者の義務について

遺言執行者は、就任と同時に、善管注意義務に基づき被相続人の遺言能力など遺言の有効性を検討する義務を負います(民法1012条第3項、644条)。また、遺言執行者の任務は、遺言者の最終意思による処分の実現にあり、遺言者の意思及び法律の規定にのみ拘束されます。そのため、相続人から遺言が無効であるなどの主張があるか否かに関わらず、遺言の有効性を判断しなければなりません。
また、民法に「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」(民法1015条)と規定されていることからも、執行行為の効果は相続人に帰属するにとどまります。あくまで遺言執行者の職務は、遺言の内容を実現することにあることから、相続人の意思により執行行為が制限されるわけではありません。
したがって、遺言執行者Aは、相続人Cの主張の有無にかかわらず、就任と同時に、善管注意義務に基づき被相続人の遺言能力など遺言の有効性を検討する義務を負います。また、遺言執行者Aによる遺言の有効性判断は、相続人Cの主張には左右されません。

遺言能力の有無の判断について

遺言能力の有無の判断については、「遺言の内容、遺言者の年齢、病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移、発病時と遺言時との時間的関係、遺言時と死亡時との時間的間隔、遺言時とその前後の言動及び精神状態、日頃の遺言についての意向、遺言者と受遺者との関係、前の遺言の有無、前の遺言を変更する動機・事情の有無等遺言者の状況を総合的に見て、遺言の時点で遺言事項(遺言の内容)を判断する能力があったか否かによって判定すべきである」(東京地判平成16年7月7日判タ1185号291頁)とされています。
そのため、遺言執行者は、遺言をした当時の遺言者の生活状況などについて、相続人や受贈者など関係者から聞き取りをした上で、遺言者の能力に関する資料の存否の確認、存在する資料の収集等をおこなうことが想定されます。
その結果、遺言執行者が、遺言は無効であると判断した場合には、執行を中止することが考えられます。遺言執行者は、無効な遺贈を執行した場合には、善管注意義務違反の懈怠により相続人に対して損害賠償責任を負う必要があるためです。

もっとも、遺言の有効性は、最終的には訴訟により決着をつけざるを得ませんので、遺言執行者の見解に反し、受遺者ら利害関係人が遺言の有効を主張している場合には、受遺者らから、遺言執行者に対し、遺産につき権利移転を求める訴訟提起を待つという対応が考えられます。また、場合によっては、遺言執行者が原告となり遺言無効確認訴訟を提起し、これにより権利関係を確定させることが必要な場合もございます。
一方で、遺言執行者が、遺言が有効であると判断した場合には、執行を継続することが考えられます。もっとも、この場合においても、遺言の有効性について最終的には訴訟により決着をつけざるを得ません。また、相続人は、遺言執行者を被告として、遺言の無効を主張し、相続財産につき持分を有することの確認を求めることも可能です。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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