第9回 秘密証書遺言(その2):秘密証書遺言の要件等

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酒井 勝則

2019-01-07

第9回 秘密証書遺言(その2):秘密証書遺言の要件等

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はじめに

 前回から、遺言の一般的な作成方法として規定されているものの一つである秘密証書遺言について、ご紹介しております。秘密証書遺言の大きな特徴は、遺言が存在することは明らかにしつつも、その内容を秘密にしておくことができる遺言であることです。
 それでは、秘密証書遺言は、どのような要件のもとで作成される必要があり、具体的にどのような流れで作成がなされるのでしょうか。 

民法が規定する秘密証書遺言の要件とは?

 まずは、秘密証書遺言に関する民法上の規定をおさらいしておきましょう。秘密証書遺言の作成についての民法の規定は、以下のとおりです。

(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
 二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
 三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
 四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2第九百六十八条第二項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。


 上記の条文からも分かるとおり、秘密証書遺言作成の明文上の要件は、①遺言者が、その証書に署名押印すること(署名押印要件)、②遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章と同一の印章を用いて封印すること(封印要件)、③遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨を申述して、筆者の住所及び氏名を申述すること(申述要件)、④公証人が、その証書を提出した日付及び遺言書の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名押印すること(公証人による封紙記載要件)の4つであることが分かります。
 以下、要件を個別に検討していきます。 

署名押印要件とは?

 秘密証書遺言は、全文を自書する必要はなく、パソコンなどで作成してもよいですし、他人に代筆させてもかまいません。ただし、全文を自書して作成した場合には、仮に秘密証書遺言としては要件を欠くため無効となる場合でも、自筆証書遺言の要件を全て充足していれば、自筆証書遺言として有効となります(民法第九百七十一条)。また、日付も公証人が記載しますので、遺言者は特に日付を記載する必要はありません。 

封印要件とは?

 遺言の内容を秘密にしておくために、遺言者は遺言書を封筒に入れるなどして封じ、遺言書に押印した印章と同一の印章を用いて封印をしなければなりません。 

申述要件とは?

 遺言者は、公証人1人及び証人2人以上の前で封書を提出し、自己の遺言書であること及び筆者の氏名・住所を申述しなければなりません。
 このとき、証人となる者が以下の規定の要件に該当する場合は、証人として認められません。

(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
 一 未成年者
 二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
 三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人


 仮に証人となる者が上記の欠格事由に該当するとなった場合、証人としてはカウントされず、その結果として、2人以上の証人が必要であるという要件を充足しないこととなり、秘密証書遺言は無効となります。
 また、秘密証書遺言は、遺言者ではない第三者に代筆させても構わないので、後日、誰が書いたのか分かるようにしておくために、「筆者」の氏名・住所を申述する必要があります。 

公証人の封紙記載、遺言者らの署名押印要件とは?

 遺言書の提出を受けた公証人は、遺言書の提出日付及び遺言者の申述内容を封紙に記載します。
 そして、公証人、遺言者及び証人がそれぞれ封紙に署名押印しなければなりません。署名は自署が求められますので、遺言者及び証人は自署できなければ秘密証書遺言の方式を欠くことになります。
 公証人による封紙記載及び遺言者らの署名押印によって、封紙は公正証書になります。しかし、封入された遺言書の内容に、公証人は関与しませんので、遺言書の内容に不備があった場合(例えば、内容の訂正等の方法が民法第九百六十八条第二項所定の要件を充足しない場合)、後に無効となってしまう恐れもあります。 

秘密証書遺言の保管のリスクとは?

 秘密証書遺言の保管は、遺言者に任され、特に公証人が保管する訳ではありません。公証役場には、遺言者が秘密証書遺言をしたことは記録されますが、遺言の内容は記録されません。加えて、秘密証書遺言の場合、自筆証書遺言とは異なり、平成30年の民法改正に伴い創設された法務局における保管制度の対象となっていません。したがって、秘密証書遺言の場合、公証役場にて遺言書が存在することは明らかだが、その遺言書そのものが見つからないという保管のリスクが存在しますので、注意が必要です。 

秘密証書作成後の手続きとは?

  秘密証書遺言も、自筆証書遺言と同様に、遺言書の保管者又は遺言書の保管者がない場合に遺言書を発見した相続人は、家庭裁判所にて検認手続きを経る必要があります。検認手続きの具体的な方法等につきましては、遺言の執行の箇所で検討します。



 次回は、公正証書遺言の概要、メリット・デメリットなどを検討します。

 

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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