第47回 無効な遺言と死因贈与について

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益子 真輝

2022-03-08

第47回 無効な遺言と死因贈与について

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はじめに

今回は、遺言書が民法上無効となった場合における遺言書の法的効果について解説していきます。
そもそも、遺言書を作成するためには、民法に定められた自筆証書遺言や公正証書遺言などの遺言作成のルールに従わなければなりません。逆にいえば、民法のルールに違反して作成された遺言書は、タイトルに「遺言書」と明記されていたとしても、民法上は無効となるおそれがあります。
遺言書が無効となった場合、基本的には、相続人は、相続財産に対してそれぞれ法定相続分に応じた共有持分を有する状態となります。もっとも、事案によっては、遺言としては無効であったとしても、死因贈与としては有効となる可能性があります。今回は、この点について、裁判例を紹介しつつ、解説をしていきます。

概要

死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生じる贈与であり、あくまで当事者間の合意によって成立する「契約」です。一方、遺贈とは、被相続人の死亡によって効果が生じる遺言によって財産を他人に無償で与える行為をいいます。また、遺贈には、当事者間の合意は必要なく、単独行為として一方的に行うことができますが、一定の方式(自筆証書遺言や公正証書遺言など。)が要求されます。
そのため、死因贈与と遺贈は、死亡したことを条件として効力が発生する点では共通しています。もっとも、死因贈与は、遺贈とは異なり、自筆証書遺言や公正証書遺言などの一定の形式を具備した書面によって行う必要は一般的にはないと考えられています(最判昭和32年5月21日民集11巻5号732頁等参照)。
したがって、自筆証書遺言や公正証書遺言などの一定の要件を充足せずに遺言書が民法上無効であったとしても、死因贈与の意思表示の趣旨を含むものと認められる場合には、遺言ではなく死因贈与として有効となる可能性があります。
死因贈与はあくまで「契約」ですので、成立のためには①贈与者の死因贈与の申込みと②それに対する受贈者の承諾の意思表示の合致を必要とします。つまり、①遺言書に記載された文言を死因贈与の申込みととらえ、それに対して、②受贈者が承諾したといえる事情がある場合には、意思表示の合致があったとして、死因贈与が成立することになります。
実際に、広島高裁平成15年7月9日判決などの死因贈与を肯定した裁判例では、①申込みの考慮要素として、書面の記載内容が死因贈与の趣旨を含むものと認められること、②承諾の考慮要素として、受贈者においても贈与を受諾する意思があるなどの事情に加えて、①申込み及び②承諾の考慮要素として、書面が受贈者の関与のもと作成されていること、その書面が受贈者において交付されていることなどの事情が存する場合がほとんどです。
一方、死因贈与の否定事例としては、仙台地判平成4年3月26日判決などがあり、当該判決では、受贈者が遺言書を確認したタイミングが、被相続人の死亡後であることから、被相続人の死亡前に遺言書を見る機会がなかったとして、①申込み及び②承諾を認定することはできないと判示しています。

ケース1(広島高裁平成15年7月9日判決)

広島高裁平成15年7月9日判決では、亡Aが作成した遺言書が無効であることを前提に、亡Aと実子であるYら(Y1・Y2)との間で死因贈与契約が成立したか否かが争われた事案です。
①Aの死因贈与の申込みがあるか否かについて、裁判所は「亡Aは、死期が迫っていることを悟り、死後自己所有の財産を、敢えて養子であるXを除外して、実子であるYらに取得させようと考え、本件遺言書を作成したのであり、その目的は、専ら、死亡時に所有財産をYらに取得させるという点にあったこと、遺言という形式によったのは、法的知識に乏しい亡Aが遺言による方法しか思い付かなかったからであり、その形式にこだわる理由はなかったこと、そのため結局遺言としては無効な書面を作成するに至ったこと、亡Aは、本件遺言書の作成当日、Bを介し、受贈者であるYらにその内容を開示していること等の点にかんがみれば、本件遺言書は死因贈与の意思表示を含むものと認めるのが相当である」として、①Aの死因贈与の申込みがあるとしました。
そして、②受贈者の承諾があるか否かについては、「Y1は、本件遺言書作成には立ち会ってはいなかったものの、その直後に亡Aの面前でその内容を読み聞かされ、これを了解して本件遺言書に署名をしたのであるから、このときに亡AとY1との間の死因贈与契約が成立したといえる。また、Y2は、本件遺言書に署名することはなかったものの、本件遺言書作成日に、病院内で、Bから本件遺言書の内容の説明を受け、これに異議はない旨述べた上、亡Aを見舞い、その際にも本件遺言書の内容に異議を述べることもしなかったのであるから、亡Aに対し、贈与を受けることを少なくとも黙示に承諾したものというべきであり、このときに、亡AとY2との間の死因贈与契約が成立したといえる。」と判断し、Y1及びY2において②承諾があるとして、死因贈与が成立したと判示しました。

ケース2(仙台地判平成4年3月26日判決)

仙台地判平成4年3月26日判決では、Aは、知人Bに対して、「私の名義名儀にある総ての全財産を私の死後はX(孫)に委譲するものとす」と記載された遺言書(以下「本件書面」といいます。)の代筆を依頼して、本件書面を作成しました(本件書面は、Aさんが自書したものではないため、自筆証書遺言としては無効です。)。また、Aの死亡直前に、A所有の不動産は、贈与や売買を原因としてYら(Aの妻など)への所有権移転登記がなされました。そこで、Aの孫であるXは、Yらに対して、本件書面による死因贈与契約が成立していたとして、Yらに対し所有権移転登記の抹消等を求めた事案です。
裁判所は、②Xの承諾について、承諾があるとは認定しませんでした。具体的には、Bは、本件書面を作成してから、Aが死亡した後の葬儀の日まで本件書面を保管していました。その後、Bは、葬儀の日にAの子どもであるC方に本件書面を持参して、C及びXに対し本件書面を呈示しました。それらの事実から、裁判所は、Xは葬儀の日以前に本件書面を見る機会はなかったとして、Xの主張する、XがAから本件書面を示されて死因贈与を承諾したという部分は、真実に反するものといわざるを得ない、つまり、受贈者であるXの②承諾がないと判示としています。
加えて、①申込みについても、「本件書面は、遺言書以外のなにものでもなく、その作成の状況、保管の経緯、原告等の親族に呈示された時期などの事情を加えて斟酌しても、死因贈与の意思表示の趣旨を含むとは認められず」と判断し、死因贈与契約が成立しないと判示しています。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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