第7回 自筆証書遺言(その5):自筆証書遺言の新制度

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酒井 勝則

2018-11-01

第7回 自筆証書遺言(その5):自筆証書遺言の新制度

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はじめに
 第3回から、遺言の作成方法として最も簡易な方法だと思われる自筆証書遺言について検討をしており、これまでは、そのメリット・デメリットや、要件である「自書」、押印などについて、ご説明をしてきました。今回は、平成30年民法改正によって新たに創設された自筆証書遺言に関する二つの制度について解説します。
 

 前回も確認しましたが、自筆証書遺言の作成についての民法の規定は、以下のとおりです。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。



上記の条文から、自筆証書遺言の作成の明文上の要件が、①遺言の全文を自書すること、②作成の日付を自書すること、③氏名を自書すること、④押印することであることが分かります。


新たな制度の1つ目は上記①の自書の要件の例外をいわゆる財産目録について認めるもので、2つ目は自筆証書遺言の保管を法務局で行う制度です。
 

遺言の全文を自書することの例外ってどんなものなの?

自筆証書遺言では、遺言の全文を自書することが求められていますが、今回の民法改正では、この例外を認め、遺言書に添付する目録については、自筆ではなく、パソコンや他人の筆記、または法務局の全部事項証明書をそのまま目録として使用するなど、他の方法でも作成できることになりました。

具体的な規定は、以下のようになる予定です

第九百六十八条
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自筆によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。




 上記の条文からも分かるとおり、自書の要件が緩和されるのは、遺言書の「本文」ではなく、「目録」に限定されます。したがって、誰に、どの財産を譲渡するかという遺言内容については、依然として、自書による必要があります。もっとも、この制度の創設により、預金口座、土地、建物、自動車、その他の動産など相続の対象となる財産が多くある方の場合、何頁にもかけて財産の内容を自らの手で記載する必要がなくなりますので、作成の手間を省くことができます。

 また、目録をパソコンなどで作成した場合には、全てのページに遺言者の署名と押印をする必要がありますので、この点にも注意する必要があります。
 

自筆証書遺言の保管制度ってどんな制度なの?

 第3回の「自筆証書遺言のメリット、デメリット」で解説しましたが、自筆証書遺言は、保管方法に制限がなく、どのような形で保管しても構わないことから、遺言書を紛失したり隠匿されてしまったりする危険性がありました。また、自筆証書遺言は、作成において公証人等の客観的な立場にある第三者の関与がないために、悪意のある他者により改変されてしまう危険性がありました。さらに、自筆証書遺言は、遺言者の死後、遅滞なく家庭裁判所における検認手続、つまり、遺言書の形式的な状態を調査・確認する手続が必要になります。

 これらの点に対応することができる制度として、新たに、自筆証書遺言の原本を法務局に保管してもらい、相続人や遺言執行者などが、相続開始後に遺言書の保管の有無等を確認でき、このように保管された遺言書については、家庭裁判所による検認の手続を不要とする制度が創設されました。

遺言書の保管は、どのように申請すればよいの?

 遺言書の保管を希望する遺言者は、以下の手続き・方法によって遺言書の保管を申請することができます。

 ・申請者
   遺言者本人が自ら出頭して行う必要があります。
 ・申請場所
   遺言者の住所地・本籍地・遺言者が所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する、法務大臣が指定する法務局となります。

 ・保管対象となる遺言書
   自筆証書遺言の遺言書で、封がされておらず、法務省令で定める様式を備える必要があります。この法務省令は、別途定められる予定です。

・提出書類
   ①遺言書、②申請書、③遺言者の氏名、生年月日、住所、本籍(外国人の方は国籍)を記載した書類、④その他法務省令で定める書類(別途定められる予定)

上記の書類を提出することで、遺言書が遺言保管所(法務局)にて保管され、磁気ディスク等によるファイル(遺言書保管ファイル)に記録、管理されます。
 

遺言書を保管してもらった後はどうなるの?

保管された遺言書については、遺言者や遺言者と一定の関係を有する者は、遺言書の閲覧や、遺言書保管ファイルに記録された事項を証明した書面(遺言書情報証明書)の交付、遺言書作成年月日や遺言書が保管されている遺言保管所の名称・保管番号について証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を求めることができます。

また、上記保管制度を利用して遺言書が保管されている場合、当該遺言書については、家庭裁判所による検認の手続が不要となります。

二つの制度はいつから始まるの?

 自書要件の例外に関する制度は、平成31年1月13日から施行され、遺言書の保管制度は、平成32年7月12日までに施行される予定です。
 

次回からは、秘密証書遺言のメリット・デメリット、主要な要件などについて検討します。 

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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