第46回 成年後見制度と相続①

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熊本 健人

2021-09-24

第46回 成年後見制度と相続①

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高齢化に伴い、被相続人のみならず、相続人も高齢であることが少なくなく、相続人の一人が認知症に罹患していることも珍しくありません。相続人間で遺産分割を成立させるには、相続人全員の同意が必要になりますが、当然、全員に判断能力があることが前提になります。そのため、相続人の一人が認知症で判断能力を失っているとなれば、本人に代わって無断で遺産分割協議書に押印するわけにもいかず、成年後見人を選任せざるを得ないことになります。
そこで、今回からは成年後見人制度について解説します。

<CASE>
Aには妻Bと子C、Dがいる。妻Bは認知症を患っており施設に入っている。Aが財産を残して死亡した。C、DはBも含めて遺産分割協議を行いたいと考えている。

成年後見制度とは

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度に分かれます。さらに、法定後見制度は、本人の判断能力の程度に応じて、後見、保佐、補助の各制度に分かれています。今回は、後見を中心に解説していきます。

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後見の対象となるのは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」です(民法第7条)。ここで「事理を弁識する能力」とは、法律行為の結果(利害得失)について認識し合理的に判断する能力のことをいいます。そして、このような能力を「欠く」というのは、一時的に回復することはあっても通常はこれを欠いた状態にあることをいいます。
具体的には、日常の買い物が自分ではできない、家族の名前や自分の居場所等もわからない、植物状態にあるような状態の人が該当します。また、上記能力を欠く常況にあることは精神上の障害によることを要します。具体的には、認知症、知的障害、精神障害、自閉症、事故による脳の損傷や脳の疾患に起因する精神上の障害を有する者等がこれに当たります。

(後見開始の審判)
第七条 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる

なお、保佐の対象となるのは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」です(民法第11条本文)。日常の買い物程度は自分でできるが、不動産の売買、自宅の増改築、金銭の貸借等の重要な財産行為は自分一人では適切に行うことができず、常に他人の援助を受ける必要のある状態の者や、いわゆるまだら認知症であってその程度が重度であり、自己の財産を適切に管理・処分するには援助が必要な場合があるという程度の者等が該当します。また、補助の対象となるのは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」です(民法第15条第1項本文)。重要な財産行為を自ら適切に行うことに不安があり、他人に代わってもらったほうがよい者や、いわゆるまだら認知症であるが軽度であり、自己の財産を適切に管理・処分するには援助が必要な場合があるという程度の者等が該当します。

成年後見人選任申立の具体的な手続き

続いて、成年後見開始の審判を申し立てる場合の具体的な手続きをみていきます。

■申立権者
本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人、検察官が申立権者として認められています(民法第7条 )。自己決定権を尊重する観点から、本人についても申立権者として認められていますが、申立てが認められるのは事理弁識能力を回復しているときに限られるとされています。

■管轄
成年被後見人となるべき者の住所地を管轄する家庭裁判所が管轄です。これは、成年後見開始の審判をするためには、本人の精神の状況についての鑑定や本人の陳述が予定されていることから、本人の住所地を管轄する家庭裁判所において事件を処理するのが審判の資料を収集するのに便宜であり、本人にとっても負担が軽いと考えられているためです。

■必要書類
成年後見開始の審判の申立ては、申立書を管轄の家庭裁判所に提出する必要があります。申立書には、成年後見の開始を求める旨及びその理由や申立ての実情、成年後見人の候補者がいる場合はその住所・氏名等を簡潔に記載し、以下のような添付書類の提出を行う必要があります。

①親族関係図
②本人の戸籍謄本、成年後見人候補者が本人の親族であるときは本人との続柄のわかる戸籍謄本
③本人及び成年後見人候補者の戸籍の附票又は住民票
④本人の登記されていないことの証明書
⑤診断書、診断書附票
⑥身体障害者手帳、療育手帳の写し等
⑦申立人照会書、本人照会書、成年後見人候補者照会書
⑧本人の財産目録
⑨親族の同意書

■申立書提出後の手続き
家庭裁判所に申立書及び添付書類が受理されると、申立人や本人、成年後見人候補者は、参与員や家庭裁判所調査官から面接を受け、事情を聴取されます。家庭裁判所は、参与員の意見や家庭裁判所調査官の調査の結果を踏まえて、鑑定の要否、後見人として専門職または親族のいずれを選任するか、成年後見監督人を選任するか否か等の判断をすることになります。

本人が申立人である場合を除き、成年後見を開始すること、成年後見人の選任、成年後見監督人の選任について、原則として本人の陳述を聴かなければなりませんが、診断書等により陳述を聴くことができないと判断されるものが大半で、ほとんどの事件では本人の陳述を聴取していないのが実情です。
また、家庭裁判所は、原則として、本人の精神の状況について鑑定をする必要があります。これは、成年後見開始の審判は本人の行為能力、財産管理権、資格などを制限する重大な効果を伴うものであることから、本人の精神の状況を慎重に判断するために求められています。もっとも、実務上は、家庭裁判所が鑑定を実施するか否か判断するために必要な情報が記載された定型の様式による診断書の提出を求め、適切に鑑定の要否を判断できるようにしています。結果的に、鑑定を実施しない事件のほうが圧倒的に多い状況です。
なお、定型の様式による診断書で記載を求められるのは以下のような情報です。
①診断名
②精神上の障害の程度(重度・中等度・軽度のいずれであるか、障害等級の有無、療育手帳の有無、知能指数等)
③現在の状態(植物状態又は植物状態に準ずるか、いずれにも該当しない場合、介護認定を受けているか、自力で移動ができるか、寝たきり状態であるか、発語ができるか、意味のある発語ができるか、会話ができるか、簡単な命令等に反応する以上の意思の疎通ができるか、目で物を追っても認識ができるか、経管栄養であるか、摂食を自力でできるか、尿失禁状態であるか等)
④所見(現病歴、現在症、重症度、現在の精神状態と関連する既往症・合併症等)
⑤回復の可能性の有無(全くない・ほとんどない・ある のいずれであるか)
⑥判断能力の程度(後見程度・保佐程度・補助程度のいずれであるか、いずれにも該当しないか)
⑦判定の根拠(年齢や経歴の記憶力があるか、言語による意思の疎通ができるか、場所や時間の見当識があるか、身体動作による意思疎通ができるか、計算ができるか、自己の家族の区別がつくか、理解力・判断力が極めて障害されているか、長谷川式認知症スケール(HDS-R)を実施することができるか、できる場合は点数、脳の萎縮が著しいか)
⑧その他特記事項

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

親の介護

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