第25回 遺言の執行(その6):遺言執行者④

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新留 治

2020-06-02

第25回 遺言の執行(その6):遺言執行者④

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はじめに

前回、遺言執行者の権利義務及び職務内容に関してご紹介しましたが、今回は、遺言執行者がある場合の遺言執行の妨害行為の制限についてご紹介します。

従前ご説明したとおり、遺言執行者は、遺言の内容を実現し、遺言に基づく権利の実現とそれに関連して必要となる事務を行う者であるところ、遺言の内容をスムーズに実現するために遺言執行者を指定・選任しておくことが有益です。そして、遺言執行者を指定・選任しておくことのメリットの一つとして、相続人が相続財産を他の相続人に無断で処分してしまうことを防ぐということが挙げられます。
以下では、相続人による処分行為等が制限される場合や制限される処分行為等の内容について述べていきます。

相続人による処分行為等が制限される場合とは

遺言執行者がある場合、相続人は相続財産を売却するなどの処分行為等が制限されることになります。民法上の規定は以下のとおりです。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

ここでの「遺言執行者がある場合」とは、「遺言執行者が指定されている場合」と「遺言執行者が選任された場合」の両方を含みます。

⑴遺言執行者が指定されている場合とは

遺言執行者が指定されている場合とは、判例によると、「遺言執行者として指定された者が就任を承諾する前をも含む」とされています(最判昭和62年4月23日民集41巻3号474頁、判時1236号72頁)。このように解される理由は、遺言執行者が就職の承諾をしていないことに乗じて、相続人が財産を処分するなどして、容易に遺言の執行を妨げることができてしまうという事態を防ぐためです。したがって、遺言執行者の指定があれば、たとえ「就任前」であっても、相続人の処分行為等が制限されます。

しかし、指定された遺言執行者が就職を拒絶した場合の効果については、複数の見解が存在します。①たとえ、就職の拒絶がされているとしても、遺言執行者の選任手続を家庭裁判所にて進めている場合には、遺言執行者が連続して存在したとみなして、処分行為が制限されるという見解と、②就職の拒絶により遺言執行者は存在しなくなったものとして、選任手続きを進めているか否かにかかわらず「遺言執行者が指定されている場合」には当たらず、処分行為等を制限されないという見解などがあります。この点、②の見解を前提としたとされる下級審裁判例も存することから、実務上は、②の考えのもと、就職を拒絶されないように事前に協議をしておくなどの対策が重要となります。

⑵遺言執行者が選任された場合とは

遺言執行者が「選任」された場合も、「遺言執行者がある場合」に含まれるところ、遺言執行者の選任は、家庭裁判所にて手続きをする必要があります。そして、この場合、遺言執行者が「選任されたとき」からの処分行為等が制限されることに注意が必要です。つまり、遺言執行者の指定がなく、家庭裁判所での遺言執行者の選任の申立てをする場合、当該申立ての手続きによって遺言執行者が選任されるまでの間は、相続人による処分行為等を制限できないことになります。



遺言の執行を妨げるべき行為の内容とは

「相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為」とは、対象となる相続財産を売却することが代表的ですが、これに限らず、当該相続財産の現状を変更する場合(例えば、相続財産たる建物の増改築をする行為など)も含まれます。
 もっとも、「遺言の執行を妨げるべき行為」とは、必ずしも相続財産を売却するなどの処分行為全般をいうわけではありません。相続人により処分が制限される相続財産は、遺言の内容によって判断されることになりますので、遺言の内容が特定の財産に関するものである場合には、当該相続財産以外の財産については、処分行為の制限を受けません。例えば、遺言の内容が特定の土地を特定の相続人に遺贈するというものの場合、相続人が当該不動産を処分することは、民法1013条第1項に基づいて制限されますが、それ以外の預貯金などの財産の処分は、同項に基づいて制限されないこととなります。
 したがって、遺言書を作成する際には、遺言執行者の指定とあわせて、可能な限り網羅的に相続財産の帰趨を定めておくことが有用です。

 遺言執行者がある場合の相続人による処分行為等が制限される場合や制限される処分行為等の内容に関する説明は以上になります。
次回は、遺言執行者がある場合に遺言執行を妨げるべき行為が行われた場合の効果等についてご紹介します。

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新留 治

神戸大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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