第8回 秘密証書遺言(その1):秘密証書遺言の要件、メリット・デメリット

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酒井 勝則

2018-11-30

第8回 秘密証書遺言(その1):秘密証書遺言の要件、メリット・デメリット

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はじめに

 今回から、遺言の一般的な作成方法として規定されているものの一つである秘密証書遺言について、ご紹介いたします。秘密証書遺言とは、遺言が存在することは明らかにしつつも、その内容を秘密にしておくことができる遺言です。自筆証書遺言との大きな違いは、一定の形式を踏まえることで、遺言の内容を誰にも知られないようにすることができることと、遺言の本文について自書が求められていないことになります。他方で、秘密証書遺言も自筆証書遺言と同様に、決まった方式に基づいて作成がなされないと遺言としての効力が発生しないことになりますので、その点の注意が必要となってきます。
 それでは、秘密証書遺言には、どのような要件のもとで作成される必要があり、具体的にどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。 

民法が規定する秘密証書遺言の要件とは?

まずは、秘密証書遺言に関する民法上の規定を見ていきましょう。秘密証書遺言の作成についての民法の規定は、以下のとおりです。

(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
 二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
 三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
 四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2第九百六十八条第二項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。


 上記の条文からも分かるとおり、秘密証書遺言作成の明文上の要件は、①遺言者が、その証書に署名押印すること(署名押印要件)、②遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章と同一の印章を用いて封印すること(封印要件)、③遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨を申述して、筆者の住所及び氏名を申述すること(申述要件)、④公証人が、その証書を提出した日付及び遺言書の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともに署名押印すること(公証人による封紙記載要件)の4つであることが分かります。 

民法が規定する秘密証書遺言の特別な規定とは?

さらに秘密証書遺言の場合には、以下の2つの特別な条文が規定されています。

(方式に欠ける秘密証書遺言の効力)
第九百七十一条 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

(秘密証書遺言の方式の特則)
第九百七十二条 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第九百七十条第一項第三号の申述に代えなければならない。
2前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。
3第一項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第九百七十条第一項第四号に規定する申述の記載に代えなければならない。


 第九百七十一条は、たとえ秘密証書遺言の要件を満たさない遺言書であったとしても、その遺言書が、自筆証書遺言の要件を全て満たしていた場合には、自筆証書遺言として有効であることを示す規定です。これは、遺言者の意思をできるだけ尊重し、遺言をなるべく有効とするための規定になります。
 第九百七十二条について、秘密証書遺言の要件③で、自己の遺言書であると申述することが求められていますが、口がきけない方の場合ですと、要件③を満たすことができなくなってしまいます。そこで、当該規定では、遺言者自身で申述する代わりに、通訳人の通訳による申述又は封紙への自書という二つの方法を認めております。 

秘密証書遺言のメリットとは?

 秘密証書遺言のメリットとしては、⑴遺言があることは明らかにしつつ、その内容を秘密にすることができること、⑵偽造・変造を防ぐことができること、⑶字を書けなくても作成することができることです。
 ⑴については、生前遺言の内容を秘密にしておきたい場合(例えば、隠し子や相続人以外の者に財産を渡したいという希望がある一方で、相続人からそのことに反対される可能性が高い場合)等に遺言の内容を秘密にすることができます。⑵については、⑴にも関係しますが、遺言の内容を秘密にすることで、誰にとって有利であるのか不利であるのか分からず、自筆証書遺言の一般的なリスクとして指摘される、不利な内容の遺言の偽造・変造を防止することができます。⑶については、秘密証書遺言の要件①にあるとおり、証書への署名押印は必要とされていますが、全文を自書することを求められているわけではありません。したがって、遺言書をパソコンなどで作成してもよいですし、他人に代筆させても構いません。また、日付も公証人が記載しますので、遺言書に記載する必要はありません。  

秘密証書遺言のデメリットとは?

 秘密証書遺言のデメリットとしては、⑴公証人1人及び証人2人以上が必要とされる等、作成手続きに手間がかかってしまうこと、⑵公証人が遺言の内容には関与しないため、記載内容を巡って紛争が生じる危険があること、⑶作成手数料等の費用がかかることです。
 具体的な作成の手間につきましては、秘密証書遺言の各要件との関係で次回以降にご紹介いたします。
 

 次回は、秘密証書遺言の要件に沿って作成の流れなどを検討します。  

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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