前回から引き続き、何が相続の対象になるのか?という問題について説明していきます。今回取り上げるのは、死亡退職金です。
国家公務員の死亡退職金は遺産?
CASE①
国家公務員であるAは、勤務中に脳卒中で倒れ、病院に緊急搬送された。その後懸命の治療が行われたが、A は数日後に死亡した。
Aの勤務する自治体においては、条例で、死亡退職金の定めがあり、勤続年数等からすると1000万円の死亡退職金が支払われることがわかった。
国家公務員については、国家公務員退職手当法という法律に次の定めがあります。
(適用範囲)
第二条 この法律の規定による退職手当は、常時勤務に服することを要する国家公務員(国家公務員法(・・・中略・・・以下「職員」という。)が退職した場合に、その者(死亡による退職の場合には、その遺族)に支給する。
(遺族の範囲及び順位)
第二条の二 この法律において、「遺族」とは、次に掲げる者をいう。
一 配偶者(届出をしないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)
二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していたもの
三 前号に掲げる者のほか、職員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維持していた親族
四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの
2 この法律の規定による退職手当を受けるべき遺族の順位は、前項各号の順位により、同項第二号及び第四号に掲げる者のうちにあつては、当該各号に掲げる順位による。この場合において、父母については、養父母を先にし実父母を後にし、祖父母については、養父母の父母を先にし実父母の父母を後にし、父母の養父母を先にし父母の実父母を後にする。
3 この法律の規定による退職手当の支給を受けるべき遺族に同順位の者が二人以上ある場合には、その人数によつて当該退職手当を等分して当該各遺族に支給する。
4 次に掲げる者は、この法律の規定による退職手当の支給を受けることができる遺族としない。
一 職員を故意に死亡させた者
二 職員の死亡前に、当該職員の死亡によつてこの法律の規定による退職手当の支給を受けることができる先順位又は同順位の遺族となるべき者を故意に死亡させた者
以上の定めに照らすと、国家公務員の死亡保険金は、遺族に直接支給される(遺族に、国に対する直接の給付請求権がある)ことになりますので、前回説明した死亡保険金と同じ理屈で、被相続人固有の財産ではなく、受給する遺族の固有の財産ということになります。よって、国家公務員の死亡保険金については、遺産の範囲に含まれないことになります。
地方公務員の死亡退職金は遺産?
CASE②
CASE①でAが地方公務員であった場合はどうか。
地方公務員の死亡退職金をどのように規定するかについて、地方公務員法は、それぞれの自治体が条例で定めてよいことにしています。
とはいいつつも、国から地方時自体に対する通達で、条例の内容は原則として国家公務員の場合に準じるように定めるべきとされていますので、各自治体における条例の内容は、概ね、CASE①で紹介した内容と同様になります。同様の規定があれば、遺産にはならない(「遺族」固有の財産になる。)ということになります。
具体的には、Aが務めていた自治体の条例の規定を確認することになります。
私企業における死亡退職金は遺産?
CASE②
CASE①でAが私企業に勤める役職員であった場合はどうか。
この場合も、Aが勤める企業の死亡退職金支給規定の定めを確認して、遺産に該当するか否かを判断することになります。
私企業において死亡退職金規定がないにもかかわらず遺族に死亡退職金は遺産?
CASE②
CASE①でAが私企業Bに勤める役職員であり、Bには死亡退職金規定がないにもかかわらず、BがAの遺族に対して死亡退職金を支払った場合はどうか。
Aの生前の貢献を鑑みて、Bが死亡退職金規定がないにもかかわらず特別に死亡退職金を支払った場合、これは、遺族に対して私企業Bが直接に支給し、遺族が直接に受給を受けた財産と考えられますので、原則として、遺産の範囲からは外れることとなります(参考、最判昭和62年3月3日)。
以上のとおりであり、死亡退職金は多くのケースにおいて遺産の範囲からは外れることになります(とはいえ、具体的には、個別のケースにおける死亡退職金規定を慎重に確認する必要があることは、上記のとおりです。)。
以上
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