第39回 公正証書遺言

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江幡 吉昭

2020-01-24

第39回 公正証書遺言

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第37回では、自筆証書遺言にまつわる事例についてお話いたしました。

今回は「公正証書遺言」のお話です。

公正証書遺言を知ろう

自筆証書遺言は、「遺言者が、遺言書の本文、日付および氏名を自書し、押印して作成する方式」の遺言でした。公正証書遺言は「遺言者が遺言の内容を公証人に伝え、公証人がこれを筆記して公正証書の遺言書を作成する方式」の遺言です(民法969条)。自筆証書遺言が年間2万件ほど行われているのに対し、公正証書遺言は年間8万件ほどが行われています。

でも、「公証人に内容を伝え、公証人がこれを筆記して…」ということで、なんだか手間がかかりそうな感じがしませんか?そもそも公証人って誰のこと?という疑問を持たれている方もいるかもしれません。
それなのに、遺言者が自ら完結できる自筆証書遺言よりも4倍近くの作成が行われているのは不思議に感じませんか?きっと、“手間はかかるけどそれだけのメリットがあるから”ということになりそうですね。

それでは、ここで改めて用語について説明します。
「公正証書」とは広い意味では公務員が作成した文書のことですが、ここでは狭い意味で公証人が作成した文書のことを指します。公文書として扱われるため、何か問題が起きた際に大きな効力(証拠力)を発揮します。
「公証人」は、裁判官や検察官など法律実務を長く務めた人で、公募に応じた者の中から、法務大臣が任命することになっています(公証人法第13条)。
「公証役場」とは、公証人が在籍する役所のことです。現在、公証人は全国で約500名、公証役場は約300箇所あるそうです。一つの公証役場に1名の公証人、という所もあるということですね。

 

公正証書遺言のメリット

それでは、公正証書遺言のメリットを見ていきましょう。
①公正証書遺言は、専門家である公証人が遺言の法的有効性をチェックしてくれます。したがって、相続発生後に遺言が無効という状況になってしまうことを防いだり、不備による紛争が起こったりすることを回避できます。
②公正証書遺言は、公証役場に保管されるので、紛失・偽造の危険が少なくなります。(自筆証書遺言書は、紛失や悪意の第三者による偽造や破棄のリスクはありますね。)
③家庭裁判所での検認の手続きが不要です。法的な有効性も確認されていることから、すぐに遺産相続を開始できます。
④自筆証書遺言とは違い、公正証書遺言は全文を書かなくてよい、という手間省きもできます。
 

公正証書遺言のデメリット

一方で、それでもやはりデメリットもあります。
①作成までに時間がかかります。公正証書遺言は、公証人と打ち合わせをし、作成の手続きを行うため手間と時間がかかります。
②遺言書作成に手数料がかかります。公証人には給与はありませんが、国が定める手数料によって運営されています。自筆証書遺言ではかからなかったこの手数料は、遺言者負担となります。
③遺言の存在が外部に明らかになる可能性(リスク)があります。公正証書遺言の作成には2名以上の証人の立会いが必要となります。このことが外部に明らかになってしまう原因ともなりえます。この証人にも条件があり、「未成年者」、「推定相続人または遺言によって財産を相続する人とその配偶者や直系血族」、「公証人の配偶者と4親等以内の親族、書記、使用人」が挙げられます。どうしても証人が見つからない場合は、有料で公証役場で紹介してもらえたりします。

このようなメリットとデメリットがある中で、結果として年間の作成数が多いのは、総じて「時間やコストをかけてでも間違いのない遺言書を作成したい」という、家族(相続人)に対する遺言者の気持ちの表れですね。
そして、ここもポイントかと思うのですが、「信頼できる証人を用意できている」ということも大きなウェイトを占めていると思います。親族以外の人間関係づくり、これも一つの相続対策となりますね。
 

公正証書遺言ケーススタディー

では、前回同様、ここから公正証書遺言にまつわる事例をいくつか出してみます。皆さんはその事例において公正証書遺言が有効か無効かを考えてみてください。

【事例1】
Aは公証役場で公正証書遺言を作成した。その際、証人として立ち会ったAの古くからの友人EとFは、Aが公証人に対して遺言内容を口授している間、また公証人が筆記している間、ずっと別室にいた。

この事例の場合、公正証書遺言としては無効となります。証人は「口授と筆記内容の同一性を確認できるような状況で立ち会わなければならない」とされているからです。

【事例2】
Aには子がおらず、妻Wとは別居(離婚はしていない)している。なお、現在AはY(女性)と同居している。Aは公正証書遺言を作成し「財産を全てYに譲る」としたが、その場にはYの姉S夫婦が証人として立ち会った。

この事例の場合も、証人としての“欠格者”が立ち会って行われているため、公正証書遺言は無効となります。

以上のように、いかに公正証書遺言といえども、無効となる可能性もあります。要件をしっかりと把握しなくていけませんね。

今回は、公正証書遺言についてお話しました。最後に一点だけお伝えします。公証人はあくまで遺言者や相続人、受遺者などに対して中立の立場で遺言を作成することが仕事ですので、遺言者や相続人にとってベストな遺言内容の提案をしてくれるわけではありません。遺言の内容については、専門家に相談することが必要になってきます。
 

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