はじめに
前回、遺言執行者の意義や遺言執行者を指定するメリット、遺言執行者になることができる者についてご紹介しましたが、今回は、遺言執行者の指定、選任方法等についてご紹介します。
従前ご説明したとおり、遺言執行者は、遺言の内容を実現し、遺言に基づく権利の実現とそれに関連して必要となる事務を行う者であるため、遺言の内容をスムーズに実現するために遺言執行者を指定・選任しておくことが有益です。
以下では、遺言執行者はどのように指定されたり、選任されたりするかについてお話します。
遺言執行者の選任とは
遺言執行者の選任手続きは、大きく分けて「①遺言書による選任」と「②家庭裁判所による選任」の二つのパターンがあります。
①遺言書による遺言執行者の指定・選任とは
遺言執行者は、遺言書に記載することで選任することができます。この場合、遺言執行者として特定の者(前回述べたとおり個人・法人のいずれでもかまいません)を指定する場合と、遺言者から指定の委託を受けた第三者が遺言執行者を指定する場合があります。遺言者から遺言執行者の指定の委託を受けた第三者は、遅滞なく、遺言執行者を指定して、指定した旨を相続人に通知する必要があります。他方で、指定の委託を受けた第三者が、その委託を辞退しようとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知する必要があります。
また、遺言執行者は、一人だけ指名するのではなく数人を指名することも可能です。遺言執行者を数人指名する場合には、遺言書で執行の方法について何も記載していない場合、その数人の遺言執行者の過半数の意向で決定されることになります。
民法上の規定は、以下のとおりです。
(遺言執行者の指定)
第千六条 遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。
2 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。
3 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。
(遺言執行者が数人ある場合の任務の執行)
第千十七条 遺言執行者が数人ある場合には、その任務の執行は、過半数で決する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
遺言書によって遺言執行者の指定を受けた者は、相続の開始と同時に、必ず遺言執行者になるというわけではなく、遺言執行者の職に就くかどうかの諾否を決する自由があります(遺言執行者の職に就くことを「就職」ということがあります)。そして、指定を受けた者には、その就職の諾否について速やかに通知しなければならないという義務もありません。そうすると、指定を受けた者が就職の諾否を決しないために一向に遺言の執行が進まないという事態が生じる可能性があります。そこで、そのような事態を避けるために、相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に指定された者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうか確答するように催告をすることができます。この催告を受けた者が、期間内に相続人に対して何も確答をしないときは、遺言執行者に就職することを承諾したものとみなされます。
民法上の規定は、以下のとおりです。
(遺言執行者に対する就職の催告)
第千八条 相続人その他の利害関係人は、遺言執行者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、遺言執行者が、その期間内に相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。
遺言執行者を指定する場合も、遺言執行者の指定を委託する場合のいずれについても、その者を特定するために氏名、住所、生年月日等を記載しておくのが一般的です。その者が、弁護士や司法書士などの有資格者の場合には、事務所の住所地を記載したり、氏名の頭に肩書を記載することもあります。
②家庭裁判所による遺言執行者の選任とは
遺言執行者が必要なのに遺言執行者の指定がない場合や、遺言執行者に指定された者が就職することを拒否した場合などにより遺言執行者がいないとき、又は一度就職した遺言執行者が辞職・解任されるなどを理由にいなくなったとき、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、遺言執行者を選任することができます。
民法上の規定は、以下のとおりです。
(遺言執行者の選任)
第千十条 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。
ここでの利害関係人とは、上述の遺言執行者の就職の諾否にかかる催告をすることができる「利害関係人」と同じ意味で、遺言の執行に関して法律上の利害関係を有する者とされています。具体的には、相続人、受遺者、相続人の債権者、受遺者の債権者などをいいます。
遺言執行者の選任の請求をうけた家庭裁判所は、遺言執行者となるべき者の意見を聴いた上で、審判という方法で遺言執行者の選任をすることになります。利害関係人は、請求の際に、就職させたい遺言執行者の候補者を挙げることができますが、家庭裁判所は、必ずしもその候補者を遺言執行者に選任する必要はなく、その裁量で遺言執行者を選任することができます。
遺言執行者の指定・選任に関する説明は以上になります。次回は、遺言執行者の権利義務や就職後の職務内容等についてご紹介します。
酒井 勝則
東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了