第8回 公正証書遺言のデジタル化

第8回 公正証書遺言のデジタル化

  • sns_icon01

今回は、公正証書遺言のデジタル化についてご紹介します。

1 公正証書制度の現状と課題

公正証書とは、法律行為等に関する事実について公証人が作成する証書のことであり、たとえば金銭貸借や遺言のために利用されています。
公正証書には、①公文書として高い証明力があること、②原本を公正・中立な第三者機関が保管すること、③一定の要件を充たす場合、裁判手続を経ることなく、直ちに強制執行をすることができる効力があるという特徴があります。これらの特徴がある公正証書制度は、紛争の防止と法律関係の明確化・安定化に寄与するものです。
しかし、公正証書に係る一連の手続きは、公正役場への出頭を前提とした対面・書面での手続きが必須であり、デジタル化に対応していないことが課題でした。

2 公正証書のデジタル化

デジタル化という課題に対応するため、2023年6月6日に公証人法等について法改正が行われました。
公正証書のデジタル化の主な概要は以下のとおりです。
① 公正証書の作成の嘱託(申請)につき、インターネットを利用して、電子署名を付して行うことが可能
② 公証人の面前での手続につき、嘱託(申請)人が希望し、かつ、公証人が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用して行うことが選択可能
③ 公正証書の原本は、原則として、電子データで作成・保存
④ 公正証書に関する証明書(正本・謄抄本)を電子データで作成・提供することを嘱託人が選択可能
なお、改正法*の施行日は公布日(2023年6月14日)から2年6月以内の政令で定める日とされていますが、本原稿の作成日である2024年2月22日現在、具体的な施行日は未確定です。
*改正法:民事執行手続、倒産手続、家事事件手続等の民事関係手続のデジタル化を図るための規定の整備等を行う改正法(民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号))、2023年6月6日に成立、同月14日に公布

3 公正証書遺言のデジタル化

公正証書遺言とは、公正証書を作成することによって行う遺言です。公証人が関与して作成されるため遺言の効力が問題になることが少なく、またその原本が公証役場で保管されるため偽造・改ざん・紛失のおそれがないことから、家庭裁判所での検認手続きが不要であることが公正証書遺言のメリットです。他方で、公正役場への出頭が必要である等の作成・手続きが煩瑣であることがそのデメリットの一つでした。
(過去の記事:https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-138/、https://egonsouzoku.com/magazine/magazine-149/)
上記法改正により、公正証書遺言の方式を定めた民法の規定(民法第969条)も下記のとおり変更されました。

第8回 公正証書遺言のデジタル化の画像

このように改正法では、公正証書遺言の方式の③乃至⑤が削除され、公正証書遺言によって遺言をするには公証人法の定めるところにより作成することが新たに明記されました。
したがって、改正法施行後は、公正証書のデジタル化の影響が公正証書遺言に直接及ぶことになり、公正証書遺言の手続きもデジタル化されることになります。その結果、インターネットやウェブ会議等を利用した、公正証書遺言作成の手続きが可能になり、公証役場への出頭等の負担が減少し、公正証書に関する電子データの管理が容易になる等、公正証書遺言をより利用しやすい環境になると考えられます。

※本記事の内容について細心の注意を払っていますが、その正確性及び完全性等の保証をするものではありません。本記事はその利用者に対し法的アドバイスを提供するものではありません。したがって、本記事の利用によって利用者等に何らかの損害が発生したとしても、本ウェブサイトの提供者、本記事の著者及びその他の本記事の関係者は、かかる損害について一切の責任を負うものではありません。

弁護士 イメージ

弁護士

早稲田大学法学部卒業
早稲田大学法科大学院修了

人気記事

  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告

遺言や相続でのお悩みを
私達が解決します。

フリーダイヤル0120-131-554受付時間 : 平日9:00〜17:00