第51回 相続発生後、遺言を発見したら

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貞方 大輔

2022-07-12

第51回 相続発生後、遺言を発見したら

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誰しも、いつかは親や配偶者の相続を経験します。
相続が発生し、故人(=被相続人)の遺品や部屋を片付けていると、ふと遺言が見つかることがあるかもしれません。

遺言の種類と保管

遺言には、「公正証書遺言」、「自筆証書遺言」、「秘密証書遺言」の3つがありますが、大半が公正証書遺言、そして自筆証書遺言です。(秘密証書遺言はほとんど作成されていないので割愛します。)

これまで自筆証書遺言は、自分で作成して、自分で保管することが基本でしたが、近年の制度改正によって、法務局で保管してもらえることになりました。公正証書遺言と同様に、遺言たる存在が公的に証明、ならびに保存されるため、非常に効果的です。
ちなみに、公正証書遺言は公証役場で作成し、原本は公証役場で保管されますが、その原本の写し(控え)としての正本・謄本を自宅で保管することもあるため、公正証書遺言といえど、その存在が自宅で発見されることもありえます。

遺言の検認

さて、公正証書遺言ならびに法務局で保管されている自筆証書遺言は、遺言たる存在が公的に証明されているため、家庭裁判所における「検認」の必要がありません。
検認とは、その遺言としての存在や内容、形状などを家庭裁判所に明らかにしてもらい、証拠保全するための手続きのことをいいます。ちなみに、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。

検認は、家庭裁判所に申立てをしてから、1~2か月ほど要するため、“10か月”という相続税申告の期限にも影響を及ぼすことにもなります。検認の申立てを行うにあたっては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本などの書類が必要になるため、手間がかかるうえ、手続きを進めるにあたり予期せぬ弊害(例えば、相続人の誰かが書類の提出を拒否する等)が生じることもありえます。

一方、法務局に保管されていない自筆証書遺言、例えば自宅で保管されている自筆証書遺言は、相続人等による破棄、改ざん、隠ぺいのリスクにさらされています。自宅で公正証書遺言の正本・謄本が発見され、それが破棄、改ざん、隠ぺいされても、肝心の原本は公証役場に保管されているため、破棄、改ざん、隠ぺいのリスクはないのです。法務局で保管された自筆証書遺言も同様です。

さて、自宅に保管されていた自筆証書遺言を発見したことを想像してみてください。驚きとともに、ついその場で開封してしまいそう(見てしまいそう)ですが、それは絶対にしてはいけません。自筆証書遺言は勝手に開封してはいけないのです。
自筆証書遺言を保管していた人や発見した相続人は、開封せずに、速やかに他の相続人にもその旨を伝え、家庭裁判所に「検認」の申立てを行わなければなりません。それをせずに開封してしまうと、過料を支払わないといけなくなったり、最悪の場合、他の相続人から勝手に遺言を開けたとして、「改ざんした!」などとあらぬ疑いをかけられることになりかねませんので、注意が必要です。
遺言を発見することによって、気持ちが混乱したり、いろんな思いや衝動が襲ってくるかもしれませんが、そこは冷静になって、ルールに則った手続きをする必要があります。間違っても破棄してしまうようなことがあれば、「相続欠格」に該当し、相続権を失うことにもなりかねません。

遺言の事例紹介

先日、こんな事例がありました。
妻を亡くした夫。生前から夫婦間で離婚の話が絶えず、家庭内別居が続き、長年にわたり、仮面夫婦の状態でした。
そして、妻が亡くなり、夫は、妻が“自分(=夫)にはまったく相続させない旨”の遺言を作っているのではないかと、妻の死後、家中を必死に探し回ります。しかし、家の中からは遺言は見つかりませんでした。さらに、公正証書遺言の存在を確認するため、公証役場に行って確認しましたが、それも発見されませんでした。夫はホッとして、子どもたちと妻の財産をどのように分割するかを意気揚々と話し始めます。(夫は自分が財産のほとんどを相続しようと企んでいました…)
ところが、そこに妻の妹が登場します。なんと、「姉から(自筆証書)遺言を預かっている。」と告げたのです。その妹は、姉の死後すぐにその自筆証書遺言を家庭裁判所に持ち込み、検認の申立てを行いました。その妹も、姉のことを苦しめた人(=夫)のことが憎く、毅然とした態度で臨んできます。
それを知った夫は完全に意気消沈。“自分には全く相続されないのだろう”と察しているようでした。実際、遺言の内容はその通りでした。ただし、夫には遺留分がありますので、亡き妻の思いは完全には達成されませんでしたが…

今回申し上げたいのは、いかなる経緯や事情があろうとも、もし自分が遺言を発見した場合、きちんと他の相続人に遺言の存在を明らかにするとともに、法律上のルールに則って手続きを進める(自筆証書遺言は必ず検認をする)ということです。

“捨てる”、“書き換える”、“隠す”といったことは絶対にしてはいけません。もし、そのようなことをすれば、自分で自分の首を絞める結果になってしまいます。
驚きのあまり、どうしたらよいのか分からなくなることもあるでしょう。そんなときは信頼のおける人や専門家に相談するようにしてください。

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貞方 大輔

立命館大学卒業後、大手生保を経て、アレース・ファミリーオフィスへ入社。
一般社団法人相続終活専門協会 代表理事

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