公正証書遺言は1年間で9万7700件(令和2年度・日本公証人連合会データより)作られています。また、令和2年7月10日よりスタートした「自筆証書遺言書保管制度」を利用した人は、開始1年間で2万件を超えました。自筆証書遺言書保管制度とは、自分で作った自筆証書遺言を法務局に預けておくことができる制度です。さらに、自筆証書遺言の検認件数(※公正証書遺言や法務局に保管した自筆証書遺言は検認不要)は、2019年分で18,625件(司法統計年報・家事編より)となっており、年々増加しています。
公正証書遺言に限ってみても、作成件数は増えており、実際、我々にお寄せいただく依頼件数も急増しています。遺言を作る人が増えている背景として、①社会的背景の変化、②メディアで取り上げられる機会が増えてきていること、③争う族(相続トラブル)が増えていること、この3つが大きな背景かと思います。
まず、①社会的背景の変化とはまさに「高齢化」です。ご存知のとおり、高齢化率は上昇を続けています。当然のことながら若い世代よりは、高齢世代の方が遺言への関心は高いです。②メディアでの取り上げについては、我々に対する各メディアからの取材依頼も増えていることから、世間の興味・関心も高まっていることを感じています。最後に③争う族が増えていることについて、遺言は争う族回避策の代表格ですから、メディアによるPRもあってか対策を講じるご家庭が増えているのでしょう。
さて、ここで遺言の種類についてお話しします。遺言は主に3種類あります。自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言です。
自筆証書遺言とは、自分で一から十まで書く必要のある遺言です。紛失・改ざんの恐れや、遺言を発見してもらえないというリスクがあるため、せっかく書いても不備となる可能性があります。ただ、その分事務的にも金銭的にもお手軽です。ペンと紙と封筒さえあればできますし、基本的には費用は発生しません。法務局で預かってもらうには3,900円だけ必要になります。
次に、公正証書遺言は公証人が作成してくれる遺言です。自分で“書く”必要がなく、遺言の原本も公証役場にて遺言者が120歳になるまで保管してくれます。しかも、証人が2人必要なため遺言の有効性の担保もされています。さらには、紛失・改ざんの恐れもありません。一方で、公証人に支払う報酬が、一般的には数万円かかるということ、銀行などに頼むとさらに高額な費用が請求されるというデメリットもあります。
最後に秘密証書遺言ですが、これは公証人が秘密証書遺言を作成したというところまでを証明してくれるものの、遺言そのものを保管してくれるわけではありません。よって、遺言自体の保管が必要です。
ここまで読まれた方はお分かりいただけたかと思いますが、「この3つの中で、どの遺言を選びますか?」との質問に多くの方は、公正証書遺言を作るのが一番なのではと思うはずです。実際に、公正証書遺言の作成件数が圧倒的に多いです。
このように、公正証書遺言は費用についてのデメリットがある中でも、年間の作成件数が多いのは、総じて「時間やコストをかけてでも間違いのない遺言を作成したい」という家族や相続人に対する遺言者の気持ちの表れでしょう。
以上、遺言の現状についてお話ししました。
最後に一点だけお伝えします。公証人はあくまで遺言者や相続人、受遺者などに対して中立の立場で遺言を作成することが仕事ですので、遺言者や相続人にとって最適な遺言の提案をしてくれるわけではありません。(最適な)遺言の内容については、専門家に相談されることをオススメします。