第42回 国際相続①

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熊本 健人

2021-05-21

第42回 国際相続①

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今回からは国際相続について解説します。
国際相続とは、人、居住地、遺産のいずれかが外国(人)である場合の相続をいいます。たとえば、被相続人が外国人である、相続人の中に外国人がいる、被相続人が外国に居住している、相続人の中に外国に居住している人がいる、遺産の一部が外国にある場合などの相続です。国際相続においては、どの国の法律を適用すべきか、実際に相続財産を取得するための手続きはどのようになっているのか、といった点が問題となりますので、順に解説していきます。

<CASE>
 Aは日本で暮らすアメリカ国籍を有する者である。先日、アメリカのニューヨーク州にいるアメリカ国籍の父Bが死亡した。B名義の土地と建物が日本にある。この場合の相続関係にはどこの法律が適用されるか。

準拠法とは

まず、国際相続が生じた場合、どこの国の法律に従うのかを決める必要があります。この基準となる法律を「準拠法」といいます。準拠法は、国際私法によって指定されます。国際私法は、国によって内容の異なる数個の法律の衝突・矛盾を解決する法として存在し、日本では、「法の適用に関する通則法」や「遺言の方式の準拠法に関する法律」などがあります。
法の適用に関する通則法によると、準拠法は、原則として、被相続人の本国法、つまり、被相続人の国籍がある国の法律に従うこととされています。たとえば、国籍が日本である被相続人がアメリカで亡くなった場合は日本の法律に従い、国籍がアメリカの被相続人が日本で亡くなった場合はアメリカの法律に従うのが原則になります。この際、相続人の国籍は関係がなく、あくまでも基準となるのは被相続人(死亡した者)の国籍です。

【法の適用に関する通則法】
(相続)
第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。

国による相続の考え方

相続の考え方は国によって異なります。相続の考え方が国によって異なれば、その手続きも自ずと異なってきます。具体的には、たとえば、日本の法律(民法)の場合、相続が開始されると被相続人の資産及び負債は何らの手続きも要することなく相続人に包括的に承継されるという考え方がとられています。このような考え方を「包括承継主義」といいます。日本のほか韓国やEU加盟国のほとんど(ドイツ、フランス、イタリア、スイスなど)がこの考え方をとっています。他方で、アメリカ、イギリス、カナダなどでは、相続が開始されると裁判所の監督下で被相続人に関する債権債務の清算手続が行われ、残った財産のみが相続人に分配されるという考え方がとられています。この考え方を「管理清算主義」といい、管理清算主義に基づく一連の相続手続(裁判手続)を「プロベイト(Probate)」といいます

遺産が外国にある場合

先に述べたとおり、準拠法は、原則として、被相続人の本国法、つまり、被相続人の国籍がある国の法律に従うことになります。もっとも、相続される財産の種類や所在地等によっては必ずしも被相続人の本国法が適用されない場合もあります。たとえば、日本、韓国、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、ポルトガルなどでは、相続財産が動産であっても不動産であっても、被相続人の本国法や住所地法が準拠法とされます。このように、相続に関する法律関係を被相続人の属人法(本国法や住所地法)によって一体的に処理する考え方を「相続統一主義」といいます。他方で、相続財産を動産と不動産に分割し、動産は被相続人の本国法又は住所地法により、不動産はそれが所在する国の法律によるという考え方もあります。このような考え方を「相続分割主義」といい、アメリカ、イギリス、中国、フランス、ベルギーなどでこの考え方がとられています。
したがって、被相続人がたとえ日本国籍を有していたとしても、被相続人の不動産が相続分割主義を採用する外国にある場合は、不動産の相続については当該不動産の所在地の外国法が適用され、また、被相続人が外国に居住していた場合には、動産の相続については、被相続人の住所地法である外国法が適用される可能性があることになりますので、注意が必要です。

相続財産の管理に関する問題

日本のように包括承継主義をとる場合であっても、相続財産が外国にある場合には、その国の裁判所に対して相続に関する申立てを行う必要があります。この場合は、動産であるか不動産であるかにかかわらず、相続財産の所在する国の法律が適用されます。したがって、管理清算主義を採用する国(アメリカやイギリスなど)に相続財産がある場合は、前述したプロベイト手続の要否や清算の方法などについて、相続財産の所在地の法律によって決定されることになります。他方で、相続財産を相続人に分配する過程における準拠法については、相続手続が係属している裁判所の国際私法の適用によって決定されることになります。

結局のところ、遺産分割手続が申立てられた国の国際私法が適用され、準拠法が決定されることになりますので、日本の裁判所に遺産分割手続が申立てられた場合には、日本の国際私法に従って準拠法が決定されることになり、被相続人の本国法が遺産分割手続についての準拠法とされます。
したがって、被相続人が日本国籍を有する場合は、日本法(民法)が適用されることになり、誰が相続人であるかといった点や相続財産の範囲については基本的には民法に基づいて決定されることになります。もっとも、外国に所在する相続財産については、前述のとおり、外国の裁判所における申立手続が必要な場合があり、また、裁判所の許可なく相続財産を勝手に処分することはできないこともあります。外国に所在する相続財産に対してどこの国の法律が適用になるかについては、当該外国の国際私法によって決定されることになります。

CASEの場合

CASEでは、法の適用に関する通則法36条により、Bの本国法が適用されることになります。Bはアメリカ国籍を有するため、Bに最も密接な関係がある州であるニューヨークの州法がBの本国法として適用されることになります(法の適用に関する通則法38条3項)。もっとも、ニューヨーク州法では、前述した相続分割主義が採用されていますので、相続財産のうち不動産についてはその所在地法によることになります。B名義の土地と建物については日本にあるため、当該不動産については日本法が適用され、その他の財産についてはニューヨーク州法が適用されることになります。

(本国法)
第三十八条 略
2 略
3 当事者が地域により法を異にする国の国籍を有する場合には、その国の規則に従い指定される法(そのような規則がない場合にあっては、当事者に最も密接な関係がある地域の法)を当事者の本国法とする。

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

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