第20回 遺産の評価③

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千葉 直愛

2019-11-19

第20回 遺産の評価③

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 前回に引き続き、今回も遺産と評価された財産の「価値」が変動する場合に、これをどのように金銭評価するかという「遺産の評価」の問題を確認していきます。
 今回は、当事者間で遺産の評価について意見が一致しない場合に、どのような手続きによって評価額を定めるのか、ということを見てみます。 

不動産の評価について争いがある場合はどうなるの?

<CASE①> 
被相続人Aには法定相続人として子B、Cがいる。Bは長年、Aと同居している。
Aの遺産は自宅不動産しかない。
Aが死亡したため、BとCが自宅をどのように遺産分割するか、協議をすることになった。
Bは、継続して居住することを希望したため、Bが自宅を取得し、自宅の評価額の半額程度を、代償財産としてCに支払う方向で、おおむね合意した。
しかしながら、自宅をいくらと評価するかについて、BC間で協議がまとまらなかったため、Bはやむなく管轄の家庭裁判所に遺産分割調停を申立てた。

前回もご説明したとおり、遺産分割協議上、不動産の価値をどのように評価するかについて、法律の定めはありません。固定資産評価額を採用しても、公示価格を採用しても、路線価を採用しても、いずれでも構いませんし、これら一般的な評価に基づく金額と異なる合意をしても、その合意は有効です。

他方で、問題となるのは、相続人間で遺産の評価についての合意が形成できない場合です。

CASE①では、Aの自宅が唯一の遺産であり、かつ、Bが自宅を取得してその評価額の半額をCに支払う、という展開になっているため、自宅をいくらと評価するか、大きな論点があります。ここに、長年のBCの不仲などの感情的な要因が加わると、当事者間では評価の方法について合意に到達できない場合があります。

そこで、Bは、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てたわけですが、家庭裁判所の遺産分割調停手続きの中には、「鑑定」と呼ばれる手続きが準備されています。
これは、ある遺産の評価について争いがあり、合意が成立しない場合に、当該遺産の評価に関し、当事者と利害関係のない専門家を鑑定人に選任して、鑑定人による評価を取得する、という手続きです。

家事事件手続法
 (証拠調べ)
 第六十四条 家事審判の手続における証拠調べについては、民事訴訟法第二編第四章第一節から第六節までの規定・・・を準用する。

 民事訴訟法
 第二編 第四章
  第四節 鑑定
 (鑑定人の指定)
 第二百十三条 鑑定人は、受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官が指定する。


CASE①のように、不動産の評価が争いになる事案においては、通常、裁判所が選任した不動産鑑定士が、鑑定人となります。

■鑑定人の費用は誰が負担するの?

<CASE②>
CASE①において、Bが不動産の評価について、鑑定人の選任を申立てようとしたところ、担当の裁判所書記官から、鑑定費用が数十万円発生すると見込まれるが負担できるか、との質問があった。Bは鑑定費用を全額負担しなければならないのか。

裁判所の鑑定手続きを利用する場合、鑑定費用が発生します。
鑑定費用とは、具体的には、裁判所が、鑑定人に対して支払う報酬の原資になるものです。
本件では、不動産鑑定士の報酬の原資になるものです。

鑑定費用を最終的に誰が、どれだけ負担するのかは、遺産分割調停条項の中で定められることになります。本件では、法定相続人がB、Cのみであり、各自の法定相続分が同一ですので、鑑定費用についてはB:C=1:1で負担する旨の定めが考えられます。

ところが、鑑定費用は、鑑定の申立をする段階で、申立人が全額予納しなければなりません。本件でいうと、申立人であるBが、裁判所に指定された金額をいったん全額予納しなければなりません。

その後、鑑定の結果が出て、調停が成立する段階で、Cに鑑定費用の半額相当額を返金してもらう、という流れになります。

■鑑定人の結果には必ず従わなければならないの?

<CASE③> 
CASE②において、鑑定の手続きの結果、不動産の価値は5000万円と算出された。
ところが、Cは本不動産の価値は少なくとも6000万円はあると考えており、鑑定の結果に納得がいかない。

遺産分割調停は、あくまでも「話し合い」によって遺産分割の内容を定める手続きです。
そのため、一方当事者が、鑑定の結果に同意しない場合、調停が成立しないこともあり得ます。これでは、鑑定を申立てた当事者は踏んだり蹴ったりとなりますね。

そこで、実務上は、鑑定の申立があった場合、“鑑定実施後に双方とも鑑定に従うこと”についての合意が取れた場合に、鑑定を実施することになっています(さらに、鑑定費用の分担についても事前に合意しておきます)。そうしなければ、裁判所としても、せっかく実施した鑑定手続きが無駄になってしまう可能性があるためです。
以上


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弁護士

京都大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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