第13回 相続の対象になる/ならない③ 

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千葉 直愛

2019-04-16

第13回 相続の対象になる/ならない③ 

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 前回から引き続き、何が相続の対象になるのか?という問題について説明していきます。今回から複数回にわたって、契約上の地位が相続されるのか否かをみていきます。 

使用貸借契約における借主の地位は遺産?

CASE① 
A男(90歳)とB女(85歳)夫婦は、預貯金もなく、少ない年金収入で老後を送っていたところ、B女の友人の地主C女が、空いている収益物件の部屋があるので、しばらくタダで住んでよいと申し出てくれたため、A男とB女はここ数年、C女が所有するアパートに居住していた。 B女が老衰のために亡くなった後、C女は、あくまでも友人であるB女にアパートを貸していたのであって、A男に貸していたわけではないので、アパートを出て行って欲しいと言ってきた。 なお、A男B女夫婦には子はいない。

 タダで物を貸し借りする契約のことを、民法では「使用貸借」といい、賃貸借契約とは異なる契約として規定されています。
 そして、使用貸借契約においては、借主が死亡した場合、使用貸借契約は自動的に終了することになっています(民法第599条)


(借主の死亡による使用貸借の終了)
第五百九十九条 使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。



 使用貸借において、貸主は、借主との人的関係に基づき、使用料(賃料)を0円にして契約をしたのだから、属人的な契約であり、借主の相続人との間に自動的に契約が引き継がれるべきではない、というのが、民法第599条の趣旨です。

 そのため、A男は、C女との間で、新たに使用貸借または賃貸借契約を締結しない限り、C女のアパートに住み続けることはできません。

賃貸借契約における借主の地位は遺産?

CASE② 
CASE①で、B女がC女に毎月5万円の賃料を支払っていた場合はどうか。

 B女が賃料を支払っていた場合、C女とB女の間の契約は、使用貸借契約ではなく、賃貸借契約になります。
 そして、賃貸借契約においては、上記の使用貸借契約とは異なり、借主が死亡した場合、借主の契約上の地位は、借主の相続人に承継される(相続される)ことになります(賃貸借の場合は、使用貸借における民法第599条のような条文がありません。)。賃貸借の場合、使用収益の対価として、賃料を支払っているので、貸主としては、継続して賃料の支払さえあれば、利益状況に不利益な変更はないのだから、契約を自動的に終わらせる必要はない、というのが、使用貸借との違いです。

A男とB女が内縁の夫婦だったらどうなるの?

CASE③ 
CASE②で、A男とB女が内縁の夫婦であった場合はどうか。

 誰が相続人になるかに関する記事(本連載第3回)でみたとおり、法律上夫婦ではない内縁の配偶者は、相続人にはなりません。そのため、本件のようなB女が有する賃貸借契約上の借主の地位を、A男が相続することもありません。
 とはいえ、法律上籍をいれているかいないかだけで、A男がこのアパートを追い出されるか否かが決まるというのは、あまりにも杓子定規です。
 そこで、借地借家法という特別な法律が、「借家権の承継」という特別なルールを定め、A男とB女が事実上夫婦関係にあった場合は、A男がB女の賃借人の地位を承継すると定め、同居人の生活を保護しています。

(居住用建物の賃貸借の承継)
第三十六条 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2 前項本文の場合においては、建物の賃貸借関係に基づき生じた債権又は債務は、同項の規定により建物の賃借人の権利義務を承継した者に帰属する。 

B女が賃料を滞納していた場合はどうなるの?

CASE④ 
CASE③で、A男は、B女の生前、家計のやりくりをB女に任せきりにしており、家賃の支払もてっきり滞りなくされているものと考えていたが、B女死亡後、C女が訪ねてきて、実はB女からはここ1年程家賃の支払いがなく元金だけでも60万円の滞納がある、今すぐ払ってもらいたい、と言ってきた。A男には支払いができるあてがまったくない。

 上記CASE③のとおり、事実上B女と夫婦関係にあったA男は、アパートの賃借人の地位を承継することになりますが、そうすると、これに伴い、B女の滞納賃料の支払義務も承継することになってしまいます。
 そこで、このようなCASEで、B男が賃借人の地位の承継を望まない場合、B女が相続人なしに死亡したことを知った後1か月以内にC女に反対の意思を表示したときは、A男は賃貸借契約の承継をせずにすむようになります(借地借家法第36条第1項但し書き)。本件で、A男が、家賃の滞納を引き継がずに新しいアパートに引っ越したいと考えた場合、B女が死亡してから1カ月以内に、C女に、退去することを伝える必要があります。

以上

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弁護士

京都大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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