第6回 自筆証書遺言(その4):氏名の自書、押印について

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酒井 勝則

2018-09-28

第6回 自筆証書遺言(その4):氏名の自書、押印について

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はじめに

第3回から、遺言の作成方法として最も簡易な方法だと思われる自筆証書遺言について検討をしており、これまでは、そのメリット・デメリットや、主要な要件である「自書」などについて、ご説明をしてきました。今回も、有効な自筆証書遺言を作成するために守るべきルール・注意点などについて、引き続き検討を進めます。

 前回も確認しましたが、自筆証書遺言の作成についての民法の規定は、以下のとおりです。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

 上記の条文から、自筆証書遺言の作成の明文上の要件が、①遺言の全文を自書すること、②作成の日付を自書すること、③氏名を自書すること、④押印することであることが分かります。本稿では、このうち③、④について検討します。  

遺言書への氏名の記載や押印することは、どのような役割を果たすの?

 遺言書への氏名の自書は、その遺言書が誰によって書かれたものかを明確にし、遺言者の真意を担保する役割を果たします。
 遺言書への押印も、氏名の自書と同様に、その遺言書が誰によって書かれたものかを明確にし、遺言者の真意を担保する役割を果たします。
 遺言書に、氏名の自書だけでなく押印まで必要とされていますが、遺言書が誰によって書かれたかの特定と遺言者の真意の確認のためだけなら、押印までせずとも氏名の自書だけでも十分なように思えます。この点について、氏名の自書だけでなく押印まで必要とされたのは、重要な文書には作成者が署名したうえで押印することで文書の完成を示すという、日本の昔からの慣習に由来しているといわれています。 

自筆証書遺言の氏名は、どのように記載すれば良いの?

 自筆証書遺言の氏名を自書する際は、誰が遺言書を書いたかが分かることが重要になります。
 氏名といえば、通常、戸籍上の氏名を記載しますので、戸籍上の氏名を記載すれば、この要件を満たすことになります。もっとも誰が遺言書を書いたかが分かるのであれば、必ずしも戸籍上の氏名ではなく、通称・ペンネーム・芸名などであっても、他人と区別できればよいとされています。また、氏名のうち、氏つまり名字だけ記載するとか、名前だけ記載する場合でも、遺言の内容などから、遺言者が誰であるか判断できるのであれば、遺言書は有効となります。
 ただし、通称・ペンネーム・芸名の場合はもちろんのこと、戸籍上の氏名を記載する場合でも、親戚に同姓同名がいる場合や、同姓同名の人が多く存在されるように、遺言書の作成者が誰であるかを特定できないという事態もありえなくはありません。そのような場合は、氏名などとともに、住所や所属団体等を記載したり、後述する実印を用いるなどして、他の人と間違われないようにすることが、無難でしょう。 

自筆証書遺言への押印は、どのようにすればよいの?

 自筆証書遺言へ押印する際の基本的なルールは、以下のとおりです。
(1)印鑑の種類
   印鑑の種類は、特に制限されておりません。したがって、実印はもちろん、三文判(認印)で押印し      てもかまいません。氏名を自書することにも関係しますが、同姓同名の方が多くいるような場合には、印鑑登録がなされた実印を用いることで、他の人との混同を回避できる場合があります。

(2)拇印または指印
   印鑑を用いない拇印または指印(遺言者が印鑑に変えて親指またはその他の指に墨、朱肉などを付けて押捺すること)でもよいとされています。また、「花押」と呼ばれる自署をその人独自の形に図案化したものを、氏名の横に記載された場合には、拇印や指印とは異なり、押印の要件を満たしません。

(3)押印の場所
   押印の場所は、通常は遺言書の末尾の氏名の後になされますが、これについても特に制限はありません。遺言書本文と同じ書面ではなく、遺言書本文の封入された封筒の封じ目に押印されているのみであってもよいとされています。

(4)外国人によるサイン
   押印を欠く自筆証書遺言は、要件を満たさないとして原則として無効となりますが、例えば、日本に帰化した外国人が約40年間ずっと日本で暮らし、日常生活では押印ではなく専らサインで済ませてきたなどの特段の事情があった場合には、遺言書に押印がなく、サインだけであったとしても、遺言書は有効とされた例もあります。 

遺言書に氏名の自書や押印がない場合には、遺言書は無効となってしまうの?

 遺言書は、民法上厳格に要件が定められていますので、氏名の自書や押印を欠く場合は、(先ほどの外国人によるサインの例はありますが)原則として無効となります。
もっとも、氏名の自書に加えて、押印まで要求することは、いくら遺言書を誰が作成したかきちんと確認できるようにするためとはいえ、求められる要件として重いという理由から、要件として不要ではないかという考え方もあります。しかし、この点は、最近何かと話題となっている民法改正でも変更はされず、これからも自筆証書遺言の要件として、氏名の自書と押印は、必要となります。


 次回は、民法改正で変化した自筆証書遺言の要件及び自筆証書遺言に関連する制度について検討します。 

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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