第33回 遺産分割と音信不通の相続人

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熊本 健人

2020-11-24

第33回 遺産分割と音信不通の相続人

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<CASE>
Aには妻子はなくB~Hの7人の兄弟がいる。Aが死亡し相続が発生したが、遺言書はない。相続人の1人であるBは、Aの遺産の不動産や預貯金の遺産分割を行いたいと考え、疎遠になっていた兄弟に連絡を取ることにした。ところが、Hにだけは連絡がつかない。Bは、遺産分割の手続を進めるためにどうすればよいか。

相続人の中に音信不通の者がいる場合、どのように対応すべきでしょうか。上記CASEのように兄弟が多い場合や、再婚の場合など、疎遠になる者が相続人に含まれる場合には、音信不通の相続人が現れることがあります。

居所を調べるには?

まず、被相続人が遺言を残し、尚且、全ての遺産についてその遺言書の中に記載があった場合は、遺言の内容を粛々と執行すればよいだけですので、遺産分割協議を行う必要はありません。したがって、音信不通の者がいても問題は生じません。しかし、今回のCASEのように、遺言書がない場合は問題となります。

遺言書が作成されていない、又は、遺言書があったとしても遺言書の中に全ての遺産が網羅的に記載されていない場合は、遺産分割協議が必要になります。遺産分割は、相続人全員の関与のもとで行わなければなりませんので、連絡が取れない者を無視し、連絡が取れる者だけが集まって遺産分割協議を行ったとしても、その遺産分割の効力は生じません。

 では、音信不通の者がいる場合、どのように対処すべきでしょうか。
 まず、住所が分からない相続人がいる場合は、住所を突き止めるところから始めなければなりません。CASEの例で考えてみます。まずは被相続人Aの出生から死亡までの戸籍謄本を取得します。仮にHがその戸籍から除籍されていた場合は、転籍された戸籍を辿ると、現在の本籍地を突き止めます。現在の本籍地が分かれば、戸籍の附票から現在の住所地を割り出すことができます。なお、戸籍の附票とは、本籍地の市区町村において戸籍の原本と一緒に保管している書類で、その戸籍が作成されてから(又は戸籍に入籍されてから)現在に至るまで(又はその戸籍から除籍されるまで)の住所が記録されている書類になります。

これにより無事に居所が分かればよいのですが、現在はその住所地に居住しておらず、行方がわからない場合があります。その場合に取ることができる手続きを2つご紹介します。

行方不明の場合の2つの制度とは?

1つは、不在者財産管理人の制度です(民法25条~29条)。
(不在者の財産の管理)
第二十五条 従来の住所又は居所を去った者(以下「不在者」という。)がその財産の管理人(以下この節において単に「管理人」という。)を置かなかったときは、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求により、その財産の管理について必要な処分を命ずることができる。本人の不在中に管理人の権限が消滅したときも、同様とする。
2 省略


不在者財産管理人の制度とは、従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に、家庭裁判所が、申立てにより、財産管理人選任等の処分を行うことができる制度です。共同相続人であれば、利害関係人として不在者財産管理人の選任を申し立てることができます。
選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理、保存するほか、家庭裁判所の許可を得た上で、不在者に代わって、遺産分割、不動産の売却等を行うことができます。不在者財産管理人になることができるのは、当該相続に利害関係を有しない被相続人の親族や、弁護士・司法書士などの専門家であり、共同相続人自らが不在者財産管理人になることはできません。

申立ての際に必要となる主な書類と費用は以下のとおりです。

【申立ての際の必要書類】
1. 申立書
2. 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
3. 不在者の戸籍の附票
4. 財産管理人候補者の住民票又は戸籍の附票
5. 不在の事実を証する資料
6. 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
7. 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書))

【申立てに必要な費用】
・収入印紙800円分
・連絡用の郵便切手

2つ目は、失踪宣告の制度(民法30条~32条)です。
失踪宣告の制度とは、不在者(従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者)につき、その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、又は戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)に、家庭裁判所が、申立てにより、失踪宣告を行い、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。共同相続人であれば、利害関係人として申立てを行うことができるのは、不在者財産管理人の制度の場合と同様です。
失踪宣告がなされると、当該相続人は「死亡した」ものとみなされるため、遺産分割協議に参加させる必要がなくなります。他方で、死亡したものとみなされる結果、当該不在者にも相続が発生します。例えば、CASEの例において、Hに配偶者や子がいる場合は、Hが死亡したものとみなされる結果、配偶者や子に相続が生じますので、その者らを相続人として遺産分割手続に参加させる必要があることになります。

申立ての際に必要となる主な書類と費用は以下のとおりです。

【申立ての際の必要書類】
1. 申立書
2. 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
3. 不在者の戸籍の附票
4. 失踪を証する資料
5. 申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書))

【申立てに必要な費用】
・収入印紙800円分
・連絡用の郵便切手
・官報公告料4816円

居所はわかるが連絡が取れない場合はどうする?

最後に、居所はわかっているけれど、なかなか連絡が取れない相続人に対してはどのように対処すべきでしょうか。
まずは、相続が発生したため連絡がほしい旨の手紙を送ってみるのがよいでしょう。はじめからあまり相続の内容を詳細に書きすぎてしまうと、相手が抵抗してしまう可能性があります。手紙の返事がない場合は、今度は、相続人関係図を付けるなどして、もう少し詳しめに相続の内容を書いてみるのがよいでしょう。それでも、返事がない場合は、「家庭裁判所での手続が必要になり面倒になる」などと相手の不利益を伝えて返事を促してみるのがよいでしょう。このタイミングで弁護士に依頼し、弁護士から書面を送ってもらうのも1つの方法です。

結局、返事がなく連絡が取れない相続人がいる場合は、法的手続を取るしかありません。遺産分割の場合は、調停を経なければ審判を行うことができない調停前置主義は適用されないため、調停を行わず直ちに審判を申し立てることもできます。もっとも、一度も調停が行われていない場合、裁判所は、まずは話し合いをすべきと判断し、調停に付すのが一般的です。したがって、通常は、まずは家庭裁判所に調停を申し立てることになるでしょう。
裁判所からの呼び出しにもかかわらず、相続人が調停に欠席し続けた場合は、調停は不成立となり、何らの手続きを取ることもなく当然に審判に移行します。審判は、調停のような話合いの場ではなく、当事者の主張と証拠をもとに、裁判官が適切な遺産分割方法を決定する手続になります。したがって、最終的にはこの審判によって、遺産分割の内容が裁判所によって決められることになります。結局、全く連絡が取れず、調停にも審判にも出席せず、何らの主張も行わなかった相続人は、最終的には自身に不利な審判がなされる可能性がありますが、これはやむを得ないといえるでしょう。

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

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