特別の寄与料って何?
<CASE②>
Aに妻は無く、子B・C・Dがいる。Aは長男Bと同居していたが、Aの介護が必要になってからはBの妻であるXが長年に渡りAの自宅で介護を行っていた。そのため、Aは介護施設に一度も入ることなく晩年を過ごし、その後死亡した。
XはAの介護を行ってきたことについて、何らかの請求をしたいと考えている。
CASE②では、結論として、Xは、BCDのそれぞれに対し、特別の寄与料の請求を行うことができます。では、特別の寄与料とは何でしょうか。
特別の寄与料とは、被相続人の親族が療養看護等の労務提供を行ったことにより、被相続人の財産が維持または増加した場合に、その親族が相続人に対して請求することができる金銭のことをいいます。この特別の寄与制度は、民法改正により新たに創設された制度であるため、2019年7月1日以降に開始した相続にのみ適用されます。
では、そもそも何故このような制度が新たに設けられたのでしょうか。
もともと改正前の民法では、寄与分は“相続人”にしか認められていませんでした。そのため、“相続人以外”の者(典型例:子の妻=嫁)が介護等の貢献をしたとしても遺産の分配を請求することができず、他方で、相続人であれば、何らの貢献をしなかった者でも遺産の分配を受けられることになるため、これでは公平性を欠くのではないかということが指摘されていました。そこで、このような“相続人以外”の者の貢献も考慮し、相続における実質的な公平を図る観点から、寄与行為をした“相続人以外”の者に対しても一定の財産を取得する制度を設けることになり、特別の寄与制度が新設されました。
特別の寄与料の要件は?
では、特別の寄与料が認められるための要件を見てみましょう。まずは条文の確認です。
第千五十条 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第八百九十一条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
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まず、請求者は、「被相続人の親族」とあるように、親族に限られています。親族とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を指します(民法第725条)。なお、相続放棄をした者及び相続人の欠格事由(民法第891条)に該当し又は廃除によって相続権を失った者は、請求者にはなれません。
次に、“無償で療養看護等の労務の提供を行ったこと”が必要になります。
ここでは、「無償」であることがポイントです。例えば、介護の際に対価として金銭を受け取っていたような場合には、特別の寄与料が認められない可能性がありますので注意が必要です。
また、寄与の対象は「労務の提供」に限定され、通常の寄与分の制度(民法第904条の2)のように「財産上の給付」は認められていません。例えば、介護費用を負担しただけでは対象にはなりませんので注意が必要です。
さらに特別の寄与を行い、被相続人の財産を維持又は増加させたことも必要です。
ここで「特別の寄与」とは、通常の寄与分の制度(民法第904条の2)以上に、通常期待されるような程度を超える貢献を指すと考えられていました。特別の寄与制度においても、貢献の程度が一定の程度を超えることが求められていますが、相続人以外の者の貢献の場合に、どの程度の貢献があれば「特別の寄与」と言えるのかについては、まだ実務の蓄積がありませんので、今後の実務の動向が注視されるところです。
特別の寄与料の請求方法は?
特別の寄与料を請求したい親族は、まずは相続人と協議してみる、ということが出発点になります。ここで寄与料の金額が合意できれば良いのですが、協議が調わなければ、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができます(民法第1050条2項本文)。ただし、この請求は「特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6ヶ月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したとき」(同条項但し書き)までに行う必要があり、比較的短い期間制限が設けられていますので注意が必要です。
また、請求する相手は相続人になります。相続人が複数いる場合には、そのうちの一部にのみ請求することもできますし、全員に対して請求することもできます。ただし、各相続人は、各自の相続分を限度にのみ寄与料を負担することになります(民法第1050条5項)ので、寄与料の全額を1人に対して請求することはできません。
なお、寄与料の額の決め方は、通常の寄与分の制度と同様です。すなわち、「寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して」決めること(民法第1050条第3項)とされ、また、「相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない」(同条第4項)との上限が設けられています。