私は争う族を担当ということでコラムの提供をさせていただきます。私が争う族に関して問題意識を持ったきっかけは相続の相談です。主に銀行時代から今まで、経営者層をメインのお客様としておりました。その対象はいわゆる一般の事業法人から地元の名士である地主さんまで多数です。その中でいつも社長が言うことは「うちのこどもたち兄弟は仲がいいので、相続でもめることなんてないよ」ということでした。ところが実際家長である父が亡くなると、不思議なことに子供たち同士、兄弟間で揉めます。例え父が死亡の時に揉めなくても、母が死亡されると兄弟間で遺産相続に際し、もめることが非常に多いと感じました。そういった経験から遺言を遺すべきだと強く思ったのです。
では遺言を遺すべきだという理由とは一体何でしょうか?それは遺産分割協議書の存在です。みなさんやみなさんのご両親が亡くなられると、通常は四十九日前後で遺産分割について話し合う機会が訪れます。理由は故人の財産の名義変更です。四十九日前後になって、様々な手続きが終わると「そろそろ故人の遺産分割について話し合うか」となるのです。そこで法務局に行ったり、銀行に行ったりするときに「遺言はありますか?」と聞かれます。しかし日本では遺言を準備している人は10%前後。よってほとんどの方は「遺言はありません」と答えます。すると法務局などでは「それでは遺産分割協議書をご提出ください」となるわけです。ここで遺族は遺産分割協議書をつくらないといけないということを認識します。遺産分割協議書とは「故人の財産を相続人でどのように分割するか合意した文書」というものです。これを相続人間の話し合いのもとにまとめるわけですが、取り分が少ない相続人が「こんな内容だったら遺産分割にハンコ押さないよ」といったら不動産も車も銀行も名義変更が出来なくなってしまいます。実際不動産などで遺産分割協議が10年もまとまらず、故人の名義のまま時だけが過ぎ去るということも多々あります。実際は固定資産税さえ、遺族が払っていればそのような名義の状態のまま放置されるケースはあるのです。
そこでいかに遺産分割協議書をまとめないで済む状態を作り出すかが大事なのです。つまり「遺言を書く」ということが非常に重要になるわけです。また遺言を作るメリットは他にもあります。一つは相続人の事務負担を大きく減らすことにもなりますし、二つ目は相続人が未成年だった場合、特別代理人を立てずに済みます。遺言を作ることでそういったメリットもあるのです。では、一つ目の相続人の事務負担を大きく減らすことになるというのはどういうことでしょうか?それは遺言さえあれば、遺産分割協議書をつくらないで済むのでひと手間省けるということです。そして二つ目の特別代理人を立てずに済むということはどういうことかと言いますと、相続人に未成年者がいる場合、家庭裁判所に「特別代理人を立てる申し立て」をする必要があり、そこでも時間がかかってしまいます。
※特別代理人とは親権者である父や母が,その子との間でお互いに利益が相反する行為(利益相反行為) をするには,子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。
ただでさえ、相続では相続放棄や準確定申告、税務申告等に期間が設けられている以上、時間との闘いです。そんな中でさらにひと手間出来てしまうわけです。そういった遺族に手間を省かせるためにも、生前に遺言は書く必要があるのです。
もっとも争う族に関して遺言さえ書けば万全かというとそんなことはありません。よって書かないよりは書いた方がいいというものです。病気で例えるとインフルエンザの予防接種のようなものでしょうか?予防接種を受けてもインフルエンザになる人はなります。ただし、この遺言と争う族の関係でインフルエンザと大きく異なるのはその重症性です。インフルエンザの場合は1週間も寝ていれば治ります。しかし争う族の場合、一度関係性がこじれてしまうと、一生親族間で仲たがいが続いてしまいます。つまり、インフルエンザよりもはるかに重症な病なのです。そこで、そこまで重い病気にならないように、たしかに遺言を遺しても揉める可能性はありますが、それを減じるために「遺言を書きましょう」ということなのです。先ほども申しあげたとおり、ここ日本では欧米と異なり、遺言を準備している人は全体の10%前後と言われています。ですので遺言を準備していない、約90%の方たちのうち、少しでも遺言を準備してもらえれば争う族が減る世の中になるはずです。そういった思いをもって本連載を始めてみたいと思っております。