第16回 相続の対象になる/ならない⑥

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千葉 直愛

2019-07-19

第16回 相続の対象になる/ならない⑥

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今回は、前回に引き続き、預貯金の取り扱いを見ていきます。
<ご参考>第15回 相続の対象になる/ならない⑤(2019.6.21) 

定期預金、定期積金は相続財産?

CASE① 
A男は90歳で死亡した。A男には法定相続人として妻B、子C、Dがいる。 A男には、遺産として、自宅土地建物のほか、1000万円の定期預金と、1000万円の定期積金があった。

前回紹介した「平成28年決定」では、銀行の「普通預金」と、郵便局の「普通貯金、定期貯金」について、相続財産に含まれる、という判断がされたのみで、その他の預金がどのような取り扱いになるかは明確ではありませんでした。

 この論点について、最判平成29年4月6日(以下「平成29年判決」といいます。)は、銀行の定期預金、定期積金についても、「平成28年決定」同様、相続財産の範囲に含まれるという判断を下しました。

 以上、「平成28年決定」及び「平成29年判決」の結果、銀行の普通預金、定期預金、定期積金、郵便局の普通貯金、定期貯金についても、相続財産の範囲に含まれることが確定しました。

 

預貯金の払戻し制度って何?

CASE② 
A男は90歳で死亡した。A男には法定相続人として妻B、子C、Dがいる。 A男には、遺産として、自宅土地建物のほか、E銀行に1200万円の普通預金がある。 CとDは従前大変仲が悪く、遺産分割協議は当面まとまりそうにない。 そのような中、CがAの葬儀の喪主を務めたところ、葬儀業者から、Cのところに、200万円の葬儀費用の支払を求める請求書が届いた。

 「平成28年決定」により、普通預金は相続財産に含まれることになりました。
 そうすると、相続人は、遺産分割協議が完了するまで、預貯金の払戻しをすることができなくなります。

 ところが、CASE②のように、被相続人の死亡に伴い、葬儀費用等の出費が発生した場合、被相続人の預貯金を一切払戻しできないこととなると、一部の相続人が葬儀費用等を負担することになって、相続人の経済状態によっては、過大な負担が生じることとなります。

 そこで、「平成28年決定」を踏まえ、平成30年7月6日に成立した改正相続法は、預貯金の一部払戻し制度を創設しました。

 (遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。


 預貯金の払戻し制度のポイントの一つ目は、この制度を使って預貯金の払戻しを受ける場合、裁判所の判断を介する必要がなく、個別の金融機関窓口の判断で足りる、ということです。葬儀費用の支払等の場合に、簡易迅速な対応ができるようになっています。

 ポイントの二つ目は、払戻し額の上限です。二種類の上限が設けられており、一つ目の上限は、
 相続開始時の預貯金債権の額 × 1/3 × 払戻しを求める法定相続人の法定相続分
です。

 CASE②でいうと、葬儀費用の支払をしたいCがE銀行に対して払戻しを求めることができる上限額は、
 1200万円 × 1/3 × 1/4 = 100万円 
ということになります。

CASE③ 
CASE②でE銀行の普通預金残高が2400万円の場合はどうか。

上記の計算式を使うと、CがE銀行に対して払戻しを求めることができるのは、
 2400万円 × 1/3 × 1/4 = 200万円 
ということになりそうです。

 ところが、民法第909条の2の預貯金の払戻し制度には、「150万円」という、二つ目の上限額があります。

 (遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第九百九条の二 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。(以下略)

平成30年法務省令第29号
 民法第909条の2に規定する法務省令で定める額は、150万円とする。


 よって、CASE③でCがE銀行に対して払戻しを求めることができる金額は、150万円ということになります。

以上


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弁護士

京都大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

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