第15回 遺言の撤回

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酒井 勝則

2019-07-05

第15回 遺言の撤回

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遺言の撤回とは

前回までに、遺言が無効となる場合についてご紹介してきましたが、今回は、遺言の撤回についてご紹介します。
遺言は、遺言書の作成時と効力発生時(遺言者の死亡時)との間に、長い時間を経過することがしばしばあります。
その間に、遺言者の家族関係や財産状態に変化が生じることもありますし、遺言者自身の意思も変化することがあります。
このような場合、遺言者がかつてなした意思表示に永久に拘束されてしまうことは、遺言者にとって酷なことですし、遺言者の最終意思の尊重という遺言の制度趣旨にも反することになります。
そこで、民法は、遺言成立後に、遺言者自身の行為により、遺言の一部又は全部の効力を失わせる「撤回」という制度を設けました。

遺言の撤回は、以下の場合に認められます。
①前の遺言を撤回する意思が遺言で表示される場合
②遺言者自身が行った法律行為等が前の遺言と抵触する場合
③遺言書または遺贈の目的物を故意に破棄した場合


遺言の撤回の方法やその効力について説明していきます。 

①遺言で前の遺言を撤回する意思表示をする場合とは?

遺言を撤回する意思は、原則として遺言の方式に従って表示されていなければ、撤回の効力を生じません。
民法上の規定は、以下のとおりです。

(遺言の撤回)
第千二十二条 遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。

上記規定は、遺言者による撤回の意思が真意であることと明確であることを担保するという要請に基づきます。
ここで用いられる遺言の方式は、撤回の対象となる遺言で用いられた遺言の方式と同じである必要はありません。
例えば、公正証書遺言を自筆証書遺言の方式で撤回しても何ら差し支えありません。 

②前の遺言と抵触する遺言や法律行為をした場合とは?

遺言者による撤回の意思が、遺言によって明示されていない場合でも、
⑴遺言者が、前の遺言と内容的に抵触する遺言をした場合
⑵遺言者が、遺言完成後に、遺言と抵触する法律行為をした場合
に、当該抵触する部分について、遺言は撤回されたとみなされます。
民法上の規定は、以下のとおりです。

(前の遺言と後の遺言との抵触等)
第千二十三条 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2 前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。

例えば、遺言者が、「土地甲をAに遺贈する。」という内容の遺言をした後、
⑴「土地甲をBに遺贈する。」という内容の遺言をした場合
⑵Bに土地甲を生前贈与した場合
にAへの遺贈が撤回されたことになります。
ここでの抵触の有無や範囲は、前の遺言の効力を否定しなければ後の遺言や法律行為の内容を実現できないかどうか(形式的・客観的な抵触)だけでなく、様々な事情から、遺言者が前の遺言と両立させない意図で後の遺言や法律行為をしたといえるかどうか(遺言者の主観的な抵触)によって判断されます。
例えば、「土地甲をAに遺贈する。」旨の遺言をした後、「土地乙をAに遺贈する。」旨の遺言をした場合や土地乙をAに生前贈与をした場合には、前の遺言と後の遺言は両立可能であり、客観的な抵触はありません。
しかしながら、様々な事情(遺言の解釈・その遺言や生前贈与をするに至った事情・遺言者の資産や家族関係・目的物の性質や価格など)から、Aに与える土地を甲から乙に変更する趣旨でなされたことが明らかならば、土地甲の遺贈は撤回したものとみなされます。 

③遺言書または遺贈の目的物を故意に破棄する場合とは?

撤回の意思が遺言で表示されていない場合でも、遺言者が前の遺言書や遺贈の目的物を故意に破棄したときは、破棄した部分について、遺言を撤回したものとみなされます。
民法上の規定は、以下のとおりです。

(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
第千二十四条 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。

上記規定のとおり、遺言者が「故意」に破棄した場合に限られますので、「過失」によって破棄した場合には撤回の効力は生じません。
しかし、事実上、破棄された遺言書の内容を再現することは難しいでしょう。この点、公正証書遺言の場合、原本は公証役場にて保管されているので、遺言者が手元にある正本を破棄しても撤回の効力は生じません。 

遺言の撤回の効力とは?

一度有効に撤回された遺言は、撤回がなされた時点で、撤回された範囲で消滅します。
民法上の規定は以下のとおりです。

(撤回された遺言の効力)
第千二十五条 前三条の規定により撤回された遺言は、その撤回の行為が、撤回され、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときであっても、その効力を回復しない。ただし、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

上記規定のとおり、一度撤回した前の遺言は原則として復活しません。ただし、撤回行為が詐欺・強迫を理由に取り消された場合は、撤回行為そのものが遺言者の真意に基づいていないということで、例外的に、前の遺言が復活することになります。

以上のとおり、遺言の撤回は、遺言で明確に示される場合だけでなく遺言者自身の行為によっても生じることがあり、このことが後に相続人間で紛争の火種になることもあります。遺言を撤回する場合、新たに遺言を作成する場合や生前贈与する際には、前の遺言との関係性や当該行為をする理由を明確にしておくことが重要といえるでしょう。

次回は、遺贈について検討します。 

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酒井 勝則

東京国際大学教養学部国際関係学科卒、
東京大学法科大学院修了、
ニューヨーク大学Master of Laws(LL.M.)Corporation Law Program修了

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