第12回 相続土地国庫帰属制度(その2)

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山下 昌彦

2024-08-23

第12回  相続土地国庫帰属制度(その2)

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前回からの続き
前回は、相続等によって土地の所有権又は共有持分を取得した者が、その土地の所有権を国庫に帰属させることができる相続土地国庫帰属制度について、その概要、制度の目的、制度を利用することができる人、申請先についてご説明しました。
今回は、相続土地国庫帰属制度によって国が引き取ることができない土地についてご説明します。

相続土地国庫帰属制度によって国が引き取ることができない土地
相続土地国庫帰属制度によって国が引き取ることができない土地について、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」は、申請をすることができない場合(却下事由)、及び申請しても承認を受けることができない場合(不承認事由)として、それぞれ下記のとおり規定しています。

(1) 申請をすることができない場合(却下事由・法第2条3項)

① 建物が存在する土地
建物はその管理費用が土地に比して高額であること、また老朽化するとその管理費用や労力がさらに増加するのみならず、最終的には建替えや取壊しが必要になるため、申請をすることができないとされています。

② 担保権又は使用収益権が設定されている土地
土地に担保権(例:抵当権)や使用収益を目的とする権利(例:地上権、地役権、賃借権)が設定される場合、当該土地が国庫に帰属した後に国が管理する際、その権利者に配慮しなければならず、場合によっては担保権が実行され、国が当該土地の所有権を失うことになるため、申請をすることができないとされています。

③ 他人の利用が予定されている土地
通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれる土地については、申請をすることができないとされています。
その理由は、土地が所有権者以外の者に実際に利用されており、今後もその利用が予定されている土地は、当該土地が国庫に帰属した後に国が管理する際、国と利用者との間で調整が必要となるためです。
政令で定めるものとして、下記のような土地が挙げられます。
(a) 現に通路として利用されている土地
(b) 墓地内の土地
(c) 境内地(宗教法人の本殿、拝殿、社務所、教団事務所、参道等の目的に利用されている宗教法人に固有の土地)
(d) 現に水道用地、用悪水路、ため池として利用されている土地

④ 特定有害物質により汚染されている土地
土壌汚染対策法に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を超えるものに限ります。)により汚染されている土地は、申請をすることができないとされています。
その理由は、土壌が汚染されている土地は、その管理又は処分に制約が生じ、汚染の除去のために多大な費用がかかる上、場合によっては周囲に害悪を発生させるおそれがあるためです。

⑤ 境界が明らかでない土地・所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
隣接する土地との境界が明らかでなくその所有者との間で境界が争われている土地や、当該土地について他に所有権を主張する者がいる土地については、当該土地が国庫に帰属した後に国が管理する際、その管理上の障害が生じるため、申請をすることができないとされています。

(2) 申請しても承認を受けることができない場合(不承認事由・法5条1項)

① 崖がある土地で、その通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要するもの
上記の崖の基準として政令は、勾配が30度以上であり、かつその高さが5メートル以上と規定しています。この基準に該当する崖がある土地であって、通常の管理にあたり過分の費用又は労力を要する場合、法務大臣はその申請を承認することができないとされています。

② 土地の通常の管理又は処分を阻害する有体物等が地上に存する土地
土地上に工作物、車両又は樹木等が存する土地で、そのような有体物が当該土地の通常の管理又は処分を阻害するものである場合、法務大臣はその申請を承認することができないとされています。
法が想定する上記の有体物の具体例として、放置車両、建物には該当しない廃屋、果樹園の樹木等が挙げられます。
なお、宅地上の柵等、当該土地の形状・性質によっては、地上に有体物が存したとしても必ずしも通常の管理又は処分を阻害するわけではない点には注意が必要です。

③ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に存する土地
このような土地の場合、法務大臣はその申請を承認することができないとされています。
法が想定する上記の有体物の具体例として、産業廃棄物、建築資材、古い水道管、浄化槽、井戸等が挙げられます。

④ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地
隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分をすることができない土地として政令で定めるものについては、法務大臣はその申請を承認することができないとされています。
政令で定めるものとして、下記のような土地が挙げられます。

(a) 民法上の通行権が妨げられている土地
■ 袋地(他の土地に囲まれて公道に通じない土地)について、民法上認められる通行権が現に妨げられている場合
■ 池沼・河川・水路・海を通らなければ公道に出ることができない土地、又は崖があって土地と公道に著しい高低差がある土地について、民法上認められる通行権が現に妨げられている場合

(b) 所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地
具体的には、当該土地に不法占拠者がいる場合等が挙げられます。
なお、妨害の程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められる場合は除外される点には注意が必要です。

⑤ 通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地
前述の①乃至④以外の土地で通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるものについては、法務大臣はその申請を承認することができないとされています。
政令で定めるものとして、下記のような土地が挙げられます。

(a) 災害被害の拡大又は発生を防止するために当該土地の現状に変更を加える措置を講ずる必要がある土地(下記の3要件を充たす場合)
■ 土砂の崩壊、地割れ、陥没、水又は汚液の漏出その他の土地の状況に起因する災害が発生し、又は発生するおそれがある土地であること
■ その災害により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体又は財産に被害が生じ、又は生ずるおそれがあること
■ その被害の拡大又は発生を防止するために当該土地の現状に変更を加える措置(軽微なものを除く)を講ずる必要があるもの

(b) 土地に生息する動物により、当該土地、その周辺の土地に存する人、農産物、又は樹木に被害を生じさせる土地(下記の2要件を充たす場合)
■ 鳥獣、病害虫その他の動物が生息する土地であること
■ 当該動物により当該土地又はその周辺の土地に存する人の生命若しくは身体、農産物又は樹木に被害が生じ、又は生ずるおそれがあるもの(但し、被害の程度が軽微で土地の通常の管理又は処分を阻害しないと認められるものを除く)

(c) 適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林(下記の3要件を充たす場合)
■ 主に森林として利用されている土地であること
■ その土地が存する市町村の区域に係る市町村森林整備計画に定められた所定の事項(造林樹種、造林の標準的な方法その他造林に関する事項、及び間伐を実施すべき標準的な林齢、間伐及び保育の標準的な方法その他間伐及び保育の基準)に適合していない土地であること
■ 上記事項に適合させるために追加的に造林、間伐又は保育を実施する必要があると認められるもの

(d) 当該土地の所有権が国庫に帰属した後、国が通常の管理に要する費用以外の費用に係る金銭債務を法令の規定に基づき負担しなければならない土地

(e) 国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地


参考:法務局ウェブサイト「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00461.html

以 上

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弁護士

京都大学法学部卒業
甲南大学法科大学院修了

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