はじめに
今回も、前回に引き続き遺言無効確認請求訴訟について解説していきます。なお、本解説については、令和4(2022)年4月1日時点における、民法を前提にしています。
今回は、遺言無効確認請求訴訟において、争点となることが多い項目について解説していきます。
そもそも、遺言無効確認請求訴訟は、当該遺言が無効であることの確認を求める訴訟となります。そのため、裁判所が判断するのは、当該遺言が無効であるか否かになります。その際によく問題となるのは、⑴遺言の方式違反があるか否か、⑵錯誤や詐欺によって遺言書が作成されたか否か、⑶公序良俗違反があるか否か、⑷遺言能力を有するか否かなどです。
原告の主張
原告は、まず①被告が遺言により財産を承継したと主張していること、②遺言者が死亡したこと、③遺言者が、死亡時に遺言の目的である財産を所有していたこと、④原告が遺言者の相続人またはその承継人であることを主張立証する必要があります。
被告の反論(遺言の方式違反の有無)
被告としては、当該遺言は、遺言の一定の方式を充足していることから、遺言が有効である旨反論することが可能です。
そもそも、遺言は、一定の方式が要求されています。これは、遺言の効力が発生した時点では遺言者は存在せず、その時点ではもはや遺言者自身の真意を確認することができないため、遺言の内容について可能な限り疑義が生じないようにしようとする意図によるものです。
一般的な遺言の方式としては、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3つがあり、要件は以下のとおりです。なお、例えば遺言書が偽造されているなどの主張もあり得ますが、基本的には、以下の要件との関係で問題となります。
公正証書遺言の有効要件は以下のとおりです。
①証人2人以上の立会いがあること
②遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
③公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること
④遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと
➄公証人が、その証書は①~④に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと
自筆証書遺言の有効要件は以下のとおりです。
①遺言者が、遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、押印したこと
②仮に、加除訂正箇所がある場合には、加除訂正部分につき、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記してこれを署名し、その変更の場所に押印したこと
秘密証書遺言の有効要件は以下のとおりです。
①遺言者が、遺言証書を作成し、これに署名押印したこと
②遺言者が、①の証書を封じ、証書に用いた印章でこれを封印したこと
③遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に②の封書を提出し、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述したこと
④公証人が、③の提出日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名押印したこと
⑤仮に、加除訂正箇所がある場合には、加除訂正部分につき、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記してこれを署名し、その変更の場所に押印したこと
原告の再反論
⑴錯誤・詐欺・強迫
仮に、当該遺言が遺言の一定の方式を充足している場合でも、原告としては、遺言者が錯誤(認識を誤って、それが原因で遺言をした場合など。)により遺言書を作成したため取消すことが可能であり、当該遺言は無効であるとの再反論が可能です。その他にも、当該遺言は、遺言者が詐欺(誰かに騙されて遺言をした場合など。)や強迫(誰かに脅されて遺言をした場合など。)によって作成されたものであるとして、詐欺や強迫を根拠に当該遺言を取消し、当該遺言は無効であるとの再反論も可能です。
⑵公序良俗違反
仮に、当該遺言が遺言の一定の方式を充足していた場合でも、原告としては、公序良俗違反(社会的妥当性に反する内容)があったとして、当該遺言が無効であると再反論することも可能です。
例えば、不倫相手に対する遺贈などの場合、最高裁判所の判決(最高裁判所第1小法廷昭和61年11月20日民集40巻7号1167頁)によると、「不倫な関係」にある者に対しての遺贈は、「不倫な関係の維持継続を目的」とする場合には無効となります。もっとも、もっぱら生計維持のための目的である場合には有効となりえることも示唆している点はご注意ください。
⑶遺言能力の不存在
仮に、当該遺言が遺言の一定の方式を充足していた場合でも、原告としては、遺言者には、遺言能力がなく、遺言者の真意に基づくものではないことから、無効である旨再反論することも可能です。
遺言能力の有無の判断については、「遺言の内容、遺言者の年齢、病状を含む心身の状況及び健康状態とその推移、発病時と遺言時との時間的関係、遺言時と死亡時との時間的間隔、遺言時とその前後の言動及び精神状態、日頃の遺言についての意向、遺言者と受遺者との関係、前の遺言の有無、前の遺言を変更する動機・事情の有無等遺言者の状況を総合的に見て、遺言の時点で遺言事項(遺言の内容)を判断する能力があったか否かによって判定すべきである」(東京地判平成16年7月7日判タ1185号291頁)とされています。
なお、原告の再反論としては、他にも、遺言者が当該遺言を撤回したなどの再反論もありえます。