生前贈与に関して、近年のうちに(もしかしたら来年から!?)ルールが大きく変わる可能性があります。新聞やビジネス雑誌でもよく紙面を賑わせています。
「110万円の非課税枠がなくなるかも」
「(3年内贈与加算といって)相続財産に持ち戻さなければならない生前贈与の期間が3年から10年とか15年になるかも」
といった内容です。
今年中(12月31日まで)の生前贈与はとても重要になってくるかもしれませんし、早い段階から計画的に進めていくことをオススメします。
さて、生前贈与の重要性が高まってくる中、贈与をする際、財産をあげる人ともらう人の間で「贈与契約書」を交わすことがとても大切になってきます。
「贈与契約書」とは、財産を贈与するときに作成する契約書です。贈与もあくまで“契約”です。
贈与契約は口頭でも成立しますが、口約束だけでは不安が残りますよね。
贈与の事実や内容を贈与契約書として書面に残しておけば、安心なうえ、次のようなメリットがあります。
贈与契約書作成のメリット
①贈与の履行を確実にする
口約束だけだと証拠が残らないため、履行が完遂されない、一方的に撤回されるといったリスクもあり、当事者間でもトラブルに発展することがあります。契約書として書面に残しておけば、合意した内容が明確になり、贈与を確実に履行してもらうことができます。
②贈与の事実を証明できる
贈与契約書は、贈与の事実があったことの証明になります。そのため、相続の際の遺産分割時において無用なトラブル防止(公平な遺産分割)にもつながります。
③税務調査において贈与が否認されるリスクを防ぐ
上記②にもありますが、贈与の事実を証明できるため、もし相続税の税務調査が入った際、税務署からの指摘に対して証明ができます。(必ず対抗できるとは限りませんが)
税務調査では、次の2点を税務署から指摘されることがよくあります。どちらも“贈与を認めない”というものです。
■子や孫にあげたお金は「名義預金」に過ぎない
「名義預金」とは“口座名義は子や孫だが、実質的な持ち主は親や祖父母である預金”です。
相続発生後にこの指摘がされると、「相続税逃れのために預金の名義を子や孫にしていたただけ」とみなされ、相続税が課税される可能性があります。贈与契約書があれば、子や孫がきちんと受け取った、つまり贈与が成立しているということを証明できます。
■毎年、贈与契約を結んだのではなく、あらかじめまとまった財産を贈与することを約束していた(例えば、1,000万円を10年にわたって毎年100万円ずつ贈与するなど)
“贈与税を回避するために1,000万円の贈与を10年に分けて行っただけ”とみなされると、最初の贈与の年に1,000万円の贈与契約があったとして1,000万円に対して贈与税が課税されることになります。贈与契約書はあれば、その都度、贈与の事実があったことを証明し、このような指摘による課税を防ぐことにも繋がります。
贈与契約書を作成する際のポイント
贈与契約書の書き方に厳密なルールはありませんが、誰が見ても、贈与の内容が明確に分かることが重要です。インターネットで検索すれば、贈与契約書のひな形がたくさん掲載されていますので参考にしてみてください。どれも同じような内容ですので、最もしっくりくるものをダウンロードして作成しても構いません。ポイントをいくつかご紹介します。
a.贈与の内容を明確にする
以下の点については必ず明記してください。(逆に言えば、これだけで構いません)
・誰があげるのか(贈与者)
・誰にあげるのか(受贈者)
・何をあげるのか
・いつあげるのか
・どうやってあげるのか(銀行振込など贈与の方法)
b.贈与契約書は2通作成して、贈与者・受贈者双方が保管する
贈与契約書は贈与者・受贈者が署名捺印のうえ、双方が保管できるよう2通作成します。契約書自体はパソコンでも、手書きでも構いませんが、署名は必ず手書きでしましょう。また、捺印も認印ではなく、実印で行うことをオススメします。
なお、受贈者が未成年(場合によっては乳幼児など)のケースも多いでしょう。その場合は贈与者・受贈者だけでなく、受贈者の親権者も契約書に署名捺印することが必要です。ネット上には、そういったケース別の贈与契約書のひな形もたくさん掲載されています。また、不動産を贈与する場合など、贈与契約書に印紙を貼る必要があるケースもあります。(金銭の贈与は印紙を貼る必要はありません)
c.契約書だけでなく、贈与の事実もきちんと残す
贈与契約書があれば万全というわけではありません。契約書は当事者の合意内容について証明するものであり、客観的な事実も残しておくことが重要です。例えば、以下のようなことが挙げられます。
・金銭を贈与する際は手渡しではなく、預金口座への振込で行うこと
・預金通帳と印鑑は受贈者側が所持・管理すること
・名義変更が必要なものの贈与は、受贈者の名義に変更すること
最後に、“面倒くさいから”といって贈与契約書を作成しないままにしておくと、相続発生時など後々になって大きなトラブルや後悔につながることも十分考えられます。1年のうちに何度も作成するものではありませんし、契約書自体はとてもシンプルで簡単に作成することができますので、必ず作成しておくようにしましょう。また、分からないことや心配なことはそのままにせず、専門家に相談することをオススメします。