第48回 遺言書を作成する際の検討と対策(その①)

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益子 真輝

2022-04-01

第48回 遺言書を作成する際の検討と対策(その①)

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今回は、事例ごとに遺言書を作成する際の注意点について解説していきます。

ケース1

Aは、令和4年1月、医師から余命4カ月と宣告されたこともあり、遺言書を作成することにした。仮に、Aが亡くなった場合に相続人となるべき者(以下「推定相続人」という。)は、Aの配偶者であるY1、AとY1との間の子である長男Y2及び次男Xのみである。
また、配偶者であるY1は、Aに長年付き添い、Y2もAのためにできることを協力していた。

ケース1の1

ケース1の事情に加えて、AとXは、令和4年1月現在、20年以上音信不通の状態であり、Aの希望としては、Xに対して一切相続させずに、Y1及びY2のみに対して、財産の全てを相続させたいと考えている。

検討と対策

そもそも、民法には相続分の定めがあり、法定相続分が決まっています。本件では、Y1が2分の1、Y2及びXがそれぞれ4分の1ずつとなります。もっとも、遺言書では法定相続分と異なる相続分割合の指定もできますので、Y1・Y2のみに対して、全財産を相続させることを遺言書に記載することは可能です。
しかし、民法には、遺留分侵害請求権という制度があり、Y1・Y2のみに対して、全財産を相続させることを遺言書に記載したとしても、その遺言書自体は無効にはなりませんが、Xは、Yらに対して遺留分侵害請求権を行使できる可能性があります。つまり、仮にXの請求が認められると、Yらは、Xに対して一定額を支払う必要があります

ケース1の2

ケース1の事情に加えて、Xは、A及びY1と長年同居していたものの、A及びY1に対して、暴言を吐くのみならず、長期間にわたって暴力を振るうなどしていたことから、Aは、Xに対して一切相続させずに、Y1及びY2のみに対して、財産の全てを相続させたいと考えている。

検討と対策

既に述べたとおり、遺言書において、法定相続分とは異なる相続分割合を指定することは可能ですが、民法には、遺留分侵害請求権という制度があります。もっとも、本件のように、Aが、Xに対して、遺留分すら残したくない場合には、相続人の廃除をする手段が残されています。つまり、特定の推定相続人(X)が、被相続人(A)に対して虐待をしていたり、被相続人(A)に対する重大な侮辱を加えていたり、特定の推定相続人(X)自身に著しい非行があった場合に、被相続人(A)や、遺言書に基づいて遺言執行者が、家庭裁判所に請求した上で、特定の推定相続人(X)の相続権を完全に剥奪することが可能です。
推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することは、①生前においても、②死後の場合に備えて遺言書においても行うことができます(その際には、遺言執行者が請求することになります)。その後、家庭裁判所において推定相続人の廃除が認められれば、①生前の場合には審判確定時から、②遺言執行者が請求した場合には被相続人(A)の死亡時から、廃除された推定相続人(X)は相続人ではなくなり遺留分侵害請求権も行使できなくなります。
なお、廃除の要件(「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」(民法892条))を充足するためには、単に素行不良や浪費などの事情では不十分であり、例えば、魔法瓶や醤油の瓶を投げつけ、かつ石油の入ったポリタンクを持って、「玄関に石油をまいてこれに火をつける」といって脅した場合などの限られた場合にのみ要件を充足します。
その他にも、「著しい非行」が認められた事例として、福島家裁平成19年10月31日審判では、被相続人の長男が,妻子とともに被相続人と同居していたところ、被相続人が70歳を超えた高齢であり、身体障害者1級の認定を受けて介護が必要な状態であったにもかかわらず、被相続人の介護を事実上妻に任せたまま出奔し、妻と調停離婚した後にも、未成年の子ら3名や被相続人の扶養料を支払うことも全くなく、被相続人の夫から相続した田畑(2588平方メートル)を被相続人や親族らに知らせないまま売却し、それ以後も被相続人や子らに対して自ら所在を明らかにしたり、扶養料を支払うことがなかったとして、「著しい非行」が認められています。
ケース1の2の事情のみでは推定相続人の廃除の要件を充足するか否かは明らかではありませんが、Aは、遺言書において、推定相続人であるXを推定相続人から廃除する意思表示を、廃除する理由とともに記載することが考えられます。
また、廃除の遺言の場合には、遺言執行者は、執行者となることを承諾すれば、遅滞なく家庭裁判所に廃除請求をしなければならないとされています。一方で、仮に、遺言書において遺言執行者を指定しなければ、利害関係人(相続人、遺言者(被相続人)の債権者、遺贈を受けた者など)から、家庭裁判所に対して、遺言執行者の選任を申立てる必要があり手続が煩雑化しますので、できれば、遺言執行者を指定しておくことが望ましいです。

ケース2

Aは、令和4年1月、医師から余命が4カ月と宣告されたこともあり、遺言書を作成することにした。Aの推定相続人は、Aの配偶者であるY1、AとY1との間の子である長男Y2及び次男Y3のみである。Aは、自分が死亡した際には、Y2及びY3は遠方に住んでいることから、Y1の世話は、隣人のXにお願いしたいと考えている。その見返りとして、財産の一部を遺贈することを希望する。

検討と対策

受贈者(X)となる者に、相続人や第三者のために一定の負担をさせる形での遺贈を負担付遺贈といい、負担付遺贈は民法で認められていますので、有効です。
また、負担付遺贈をする際には、受贈者が、一定の負担を確実に履行するように、できるだけ負担の内容を客観的かつ明確に、遺言書に記載しましょう。もっとも、受贈者(X)は、負担付贈与を放棄することもできます。
民法には、遺留分侵害請求権という制度がありますので、負担付遺贈により相続人の遺留分が侵害されている場合には、かかる権利を行使される可能性があります。そこで、遺言書の中に、負担付贈与を行う理由などを記載して、他の相続人が遺留分侵害請求を行わないように要望することも考えられます。
ただし、要望をしたとしても、相続人自身は、遺留分侵害請求権の要件を充足さえすれば権利行使自体は可能ですので、あくまで「要望」(お願い)にとどまります。

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益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

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