第45回 国際私法と遺言(その②)

 イメージ

益子 真輝

2022-01-14

第45回 国際私法と遺言(その②)

  • sns_icon01

はじめに

今回も、国際相続として、複数の国が関与する場合の遺言の例をご紹介いたします。
<ケース>
Xさんは、日本国籍を有し、日本に住んでいます。Xさんは、60歳の時にA国へと旅行にいきました。その際、A国の法律上有効な方式である自分の声を録音する方式で、遺言(以下「本件遺言」といいます。)を残しました。その後、Xさんは日本に帰国し、自分が残した本件遺言を撤回したいと考えるに至り、録音による方式で本件遺言を撤回しようと考えています。
日本の民法上は、録音による遺言は認められていませんが、Xさんは、日本の民法上必要となる自筆証書や公正証書などの煩わしい方式によらずに、録音による遺言により撤回をしたいと考えています。
そこで、Xさんは、A国では有効とされている録音による方式により、撤回をすることはできるのでしょうか。

遺言の取消しの可否について

まず、遺言書を作成した遺言者は、遺言が有効に成立したとしても、有効に成立した遺言の撤回の意思表示をすることができます。また、「遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による」(法の適用に関する通則法(以下「通則法」といいます。)第37条第2項)と規定されていますので、遺言の取消しは、遺言取消時の遺言者の本国法によることになります。また、ここでいう遺言の取消しとは、有効に成立した遺言の撤回と同じ意味です。
本件においては、Xさんは、日本国籍ですので、本国法は日本法となります(通則法第37条第2項)。また、日本の民法上では、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。」(民法第1022条)と規定されていますので、遺言者の生存中においては、「遺言の方式に従って」、遺言により行われた意思表示を自由に撤回することができます。

遺言の撤回方式について

次に、「遺言の方式に従って」(民法第1022条)についてですが、遺言の撤回方式としては、遺言の方式の準拠法に関する法律(以下「遺言準拠法」といいます。)第3条に規定があります。遺言準拠法第3条では、「遺言を取り消す遺言については、前条の規定によるほか、その方式が、従前の遺言を同条の規定により有効とする法のいずれかに適合するときも、方式に関し有効とする。」と規定されています。また、「前条の規定」とは、前回ご紹介した遺言準拠法第2条のことです。
遺言を撤回する場合においても、遺言の成立と同じように一定の方式が求められます。その方式はどの国を基準にすればよいのかということが、遺言準拠法第3条に規定されているのです。具体的には、遺言の撤回方法は、次のいずれかの法による撤回方法に加えて、取り消される遺言を有効とする法(言い換えると、作成した遺言を有効とした国の法であり、本件ではA国の法となります。)に規定されている撤回方法も効力を有することになります。
なお、取り消される遺言を有効とする法における撤回方法も効力を有するとした趣旨は、遺言者がある遺言を取り消そうとするときには、その遺言の場合と同じ法が定める方式に従って取消しの遺言をすればいいと考えるのが自然であり、そのような遺言者の意図を保護するためです。
①行為地法(法律行為の行なわれる場所の法律のことです。)
②遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
③遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
④遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
⑤不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法のいずれか1つ遺言の方式が適合するとき
本件においては、Xさんが撤回をした場所は日本ですので、上記①によると行為地法は日本法となってしまいます。次に、Xさんは、日本国籍を有し日本に住んでいますので、上記の②③④によると日本法となってしまいます。
もっとも、Xさんは、本件遺言はA国において残していますので行為地法はA国法となり、本件遺言はA国法の方式により有効に成立しています(上記①)。
したがって、「その方式が、従前の遺言を同条の規定により有効とする法のいずれかに適合するとき」(遺言準拠法第3条)を根拠にすると、A国法を準拠法としてA国の法律で有効とされている遺言の撤回方法として、録音による方式で本件遺言の撤回をすることが可能となります。

益子 真輝 イメージ

益子 真輝

同志社大学法学部法律学科卒業
神戸大学法科大学院修了

人気記事

  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告

遺言や相続でのお悩みを
私達が解決します。

フリーダイヤル0120-131-554受付時間 : 平日9:00〜17:00