第43回 国際相続②

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熊本 健人

2021-06-18

第43回 国際相続②

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前回に続き、国際相続について解説します。

<CASE1>
Aは日本で暮らすアメリカ国籍を有する者である。Aは妻と子のために遺言書を作成し死亡した。Aの遺言書は日本の方式ではなくアメリカの方式(押印無し)で作成されている。

遺言の準拠法

遺言の準拠法、つまり“どこの国の法律に従うのか”はどのように決まるでしょうか。日本は、遺言の方式について、ハーグ国際私法会議で成立した「遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約」に批准し、「遺言の方式の準拠法に関する法律」を制定しています。そのため、①遺言を作成した場所の法律、②遺言者が遺言の作成時又は死亡時に有していた国籍国の法律、③遺言者が遺言の作成時又は死亡時に住所があった場所の法律、④遺言者が遺言の作成時又は死亡時に常居所があった場所の法律、⑤不動産についての遺言は、その不動産がある場所の法律のいずれかの方式に則って作成された遺言は有効となります。
CASEの場合、日本で暮らすアメリカ国籍を有するAが、アメリカの方式の遺言書を作成していますので、この遺言書は上記②により有効となります。

【遺言の方式の準拠法に関する法律】
(準拠法)
第二条 遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。

一 行為地法
二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

次に、遺言の成立と効力については、「法の適用に関する通則法」第37条第1項により、その成立当時における遺言者の本国法によるとされています。ここで、遺言の成立とは、遺言能力や意思表示の瑕疵等を意味します。また、遺言の効力とは、遺言の効力発生時期や遺言の撤回の可否等を意味します。したがって、CASEの場合で、関係当事者が遺言の成立や効力を争う場合には、遺言者の本国法、つまりAの国籍であるアメリカ法によって、その成立や効力の有無が判断されることになります。

では、Aが遺言を撤回したい場合はどこの法律に従えばよいでしょうか。遺言の撤回については、「法の適用に関する通則法」第37条第2項により、撤回当時の遺言者の本国法により撤回の可否が判断されるとされています。たとえば、遺言の撤回能力、撤回の意思表示の瑕疵、撤回の方法・範囲、撤回の効力の発生時期等については、Aの本国法であるアメリカ法によって判断されます。

【法の適用に関する通則法】
(遺言)
第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。


遺言書の検認

遺言書の検認については、その目的、性質、手続は、国によって異なります。たとえば、日本での検認は、遺言書の方式その他の状態を調査、確認し、後の偽造、変造を防止し、その保存を確実にすることを目的としています。すなわち、検認は、遺言執行前の準備手続という位置付けです。また、検認の性質、手続については、遺言の内容の真否やその効力の有無等の遺言書の実体法上の効果を判断するものではなく、検認は裁判所が検認の手続及びその調査を調書において明確にするにとどまります。すなわち、検認の結果に対する判断を宣言するものではなく、遺言執行前の裁判所の検証手続のようなものに過ぎないのです。ドイツ、イタリア、フランスなどでも同様の検認制度が存在します。他方で、イギリス、アメリカ、オーストラリア等は、日本のそれとは異なります。たとえば、イギリスでは、遺言執行者は、同人を遺言執行者に指定している遺言についての検認を経ない限り、遺言執行者としての権利主張を行うことができないとされています。すなわち、検認は遺言の執行及び遺言執行者の地位を確立するために必要な手続として機能しており、裁判所の検証手続のようなものに過ぎないというわけではありません。

では、遺言書の検認については、どこの法律に従うことになるでしょうか。実務上は、検認の要否、効果、手続のいずれについても法廷地法を適用することが多いです。すなわち、日本で検認手続を行えば法廷地は日本となり、日本法が適用されることになります。たとえば、検認の要否については、原則として検認の申立てが必要(但し、公正証書遺言の場合は不要)ということになります。

<CASE2>
Aはアメリカで暮らす日本国籍を有する者である。日本で暮らし、日本国籍を有するAの父Bが死亡した。Bの相続人はAのほかに妻C、子DEがいるがいずれも日本暮らしで日本国籍を有している。

相続人の中に海外居住者がいる場合

国際相続の場合、準拠法は、原則として、被相続人の本国法、つまり、被相続人の国籍がある国の法律に従うことになります。したがって、相続人の国籍や居住地は関係ありません。もっとも、相続人の中に海外居住者がいる場合には、注意が必要です。

たとえば、日本では、相続手続において印鑑証明書を要求されますが、諸外国には印鑑証明書たるものが存在しないため、日本で取得を試みるか、その代わりとなるものを準備する必要があります。
住民票を日本に残したまま海外に居住している場合は、一時帰国のうえ市区町村で印鑑証明書を取得するか、代理人に印鑑証明書の取得を依頼する必要があります。他方で、住民票が日本に無い場合は、海外の日本領事館で印鑑登録証明書を発行してもらう必要があります。または、日本領事館でサイン証明書を発行してもらう方法もあります。サイン証明書は、遺産分割協議書等を領事館に持参すると、パスポート等で身分確認が行われたうえで発行してもらえます。具体的には、「以下身分事項等記載欄の者は、本職の面前で貼付書類に署名(及び拇印を押捺)したことを証明します。」といった記載がある証明書を遺産分割協議書に貼り付けてもらえます。

また、日本国内に住民票がない場合は、海外の日本領事館で在留証明書を発行してもらう必要もあります。
このように、相続人の中に海外居住者がいる場合は、必要書類の取得に注意が必要です。

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熊本 健人

学習院大学法学部卒業
神戸大学法科大学院修了

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