前回までの遺留分の話から少し遡りますが、今回からは数回にわたり「相続分」についてお話をします。前回お話しした通り、『遺留分とは第三者に渡ってしまう財産のうち、原則として「法定相続分」の半分の財産は取り戻せる』というものです。さらに民法900条においてその割合がしっかりと規定されている法定相続分は、相続終活専門士やFP資格の試験問題を出題する側からすると、とても都合のいい出題ポイントなんです。したがって、常にと言っていいほど「法定相続分」ばかりがピックアップされます。しかし、実際の相続の現場では相続が発生したときに常に法定相続分で相続が成り立つわけではありません。ご存知の通り、実際には「指定相続分」も出てきます。この指定相続分は民法902条に規定されています。
902条
1.被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2.被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める
注:「前二条」とは、この場合は900条“法定相続分”、901条“代襲相続人の相続分”を指します。
902条1項において前回までお話した遺留分についての記述がありますね。その遺留分に関するただし書き部分を読んで、皆さんがその意図するところを瞬時に理解してくれていたとしたら幸いです。
さて、指定相続分の代表例を3つ紹介します。
被相続人Aが死亡し、相続人である妻Wと長男Sと長女Dに遺言を残し、「相続財産について、妻Wに5分の2、長男Sに5分の2、長女Dに5分の1の割合で相続させる」とした。
被相続人Aが死亡し、相続人である妻Wと長男Sと長女Dに遺言を残し、「相続財産について、長男Sに2分の1を相続させる」とした。
被相続人Aが死亡し、相続人である妻Wと長男Sと長女Dに遺言を残し、「相続財産のうち、甲土地を長男Sに相続させる」とした。被相続人Aが死亡し、相続人である妻Wと長男Sと長女Dに遺言を残し、「相続財産のうち、甲土地を長男Sに相続させる」とした。
上記3つのパターンが代表的な指定相続分なのですが、被相続人の最後のメッセージとはいえ、これはもう争族の芽が明らかに見え隠れしていますよね。
そうした指定相続分による争いやそもそも相続分の指定がない場合などに、相続人の不満や相続人間の争いを回避するため、皆さんが一生懸命覚えた(私自身もその1人です)、「法定相続分」が規定されているわけなんです(なぜか条文上は法定相続分の方が先なのですが)。
900条
同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
実はこの条文のうち最近改正された部分があります。第四項です(平成25年改正)。
改正前の第4項は「四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。」とされていました。「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、」という部分が削除され、嫡出でない子の相続分が嫡出子の相続分と同等になりました(※「嫡出でない子」とは,法律上の婚姻関係にない男女の間に生まれた子をいいます)。
ちなみに、昭和55年の民法改正以前は、相続人が「子と配偶者」だった場合の配偶者の法定相続分は「3分の1」でした。改正後現在も2分の1ですよね。差別問題は法律上もしっかりと解決されつつあるようですね。
今回は「相続分」について、おさらいの意味も含めて「指定相続分」と「法定相続分」についてお送りしました。
しかし、900条~902条までの指定相続分と法定相続分によってだけで相続分が決定されるわけではなく、最終的に具体的な相続分が確定される際には「相続人間の公平性を考慮すべき」という論点が生まれてきます。そこに「特別受益の持戻し」と「寄与分」というものが出てくるのですが、それはまた次回以降お話しますね。