第37回 認知症と相続②(相続人が認知症の場合)

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貞方 大輔

2022-01-28

第37回 認知症と相続②(相続人が認知症の場合)

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前回は、「被相続人が認知症の場合」についてお話しましたが、今回は「相続人が認知症の場合」について見てみましょう。

相続人が認知症の場合

もし相続人に認知症の人がいたら・・・
被相続人だけでなく、相続人が認知症を患ってしまうという可能性も大いにあります。
家族(相続人)の中に認知症と診断された人がいると、そのまま何もしなければ被相続人が亡くなった後の遺産分割協議を進めることができません。
相続の際、被相続人が生前に遺言を作成していれば、遺産分割は原則としてその遺言のとおりになります。しかし、遺言は必ずしも作成されているものではありません。むしろ作成されていないことが多いのが現状です。

遺言が作成されていなかった場合、遺産分割は相続人全員参加による「遺産分割協議」にて決めなければなりません。相続人の一人が勝手に判断し、勝手に遺産を分割することは認められていません。そして、遺産分割協議は相続人が一人でも欠けていたら無効になります。

ここで注意したいのが、「相続人が欠ける」というのは、なにもその相続人が見つからないといったケースだけでなく、その相続人に判断能力が欠けている場合も指します。自らの意思で正常な判断ができないということは、自身が不利な条件で遺産分割協議をされていることすら分からないということです。かといって、その人を無視して遺産分割協議を進めていい決まりはありません。すべての相続人は平等に取り扱われるのが原則です。
よって、認知症など正常な判断ができない人は、遺産分割協議に参加できず、結果、遺産分割協議自体が進められなくなります。なお、認知症の相続人に代わって他の相続人が遺産分割協議書に署名捺印するなどの行為は、私文書偽造として犯罪行為にあたる恐れがありますので、くれぐれもこのような行為はしてはいけません。

ここで成年後見人の登場

このような場合に必要になるのが成年後見人です。
成年後見人が本人の代わりに遺産分割協議に参加することで、話し合いを進めることができるようになります。被後見人本人の同意は必要ありません。
成年後見人は、被後見人(正常な判断ができない人)の代わりに単に遺産分割協議に参加するだけではなく、ときには不利益を被らないように意見しながら財産を確保します。
成年後見人の選任手続きは、被後見人の住所地を所管する家庭裁判所にて行います。(手続きの詳細については割愛します。)
この際に注意しなければならないのが、同じ相続人という立場にある人(=家族)は、成年後見人になること自体は可能ではありますが、遺産分割協議の際に、別途「特別代理人」を選任しなければ、遺産分割協議を進めることができないという点です。
同じ相続の当事者が成年後見人として遺産分割協議に加われば「利益相反」が発生してしまう可能性があります。つまり、相続の当事者である成年後見人が自分の利益を優先し、被後見人が遺産を十分に受け取ることができない恐れがあるのです。このような不利益を避けるために、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てます。(尚、成年後見監督人がいれば、その成年後見監督人が代理人となるため特別代理人を立てる必要はありません。)
このように相続人が認知症になった場合には、相続において成年後見人の存在が欠かせなくなる可能性があります。

やっぱり遺言が大切

相続人が認知症の場合、相続発生後に必ず成年後見人を選任しなければならないのかというとそうではありません。成年後見人を選任しなくてもよい方法が一つだけあります。それは遺言です。遺言がある場合は、原則その遺言のとおりに遺産分割が行われるため遺産分割協議をする必要がありません。よって、相続人の意思能力云々は不問になりますので、わざわざ成年後見人を選任する必要がなくなるのです。「財産をどのように分割するかで揉めないように」という観点と「相続人が認知症の場合に、遺産分割が滞ってしまうことがないように」という観点からも遺言は非常に大切なのです。

以上、被相続人、相続人が認知症になることによって起こりうる問題点を見てきましたが、いつ自分自身や家族に振りかかってきてもおかしくありません。生前にきちんと遺産分割の方法を決めておき、そのことを遺言に残すことで問題点やトラブルを回避することができます。皆さんもぜひ今一度、ご家族の方と一緒に考えてみてください。

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貞方 大輔

立命館大学卒業後、大手生保を経て、アレース・ファミリーオフィスへ入社。
一般社団法人相続終活専門協会 代表理事

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