前回までは「特別受益」の制度についてご紹介してきました。
今回からは、「寄与分」の制度についてご説明します。「寄与分」も「特別受益」と同様に、相続人間の公平を図るために相続権の範囲を調整する制度です。
早速、制度の概要から見ていきましょう。
寄与分って何?
<CASE①> みかん農家であるAには、妻Bと子C、Dがいる。Aには、みかん畑のほか自宅の土地建物と1000万円の預金がある。 長男Cは就職して会社員として勤務するかたわら、AやBと同居しAの農作業を手伝っていた。具体的には、Cは会社員としての勤務期間中に約35年間にわたり年間150日農作業を手伝い、その後Aが亡くなる前約3年間については専従的に農業に従事していた。他方、二男Dは会社員として勤務し、就職後は農作業を手伝ったことはなかった。 Aは80歳を超えても農業に従事していたがその後死亡した。BCD間で遺産分割協議が行われているが、Cは、Aの農作業を長年手伝ってきたためBやDよりも多くの財産を取得したいと主張している。
<CASE②> Aには、妻はなく子B、Cがいる。Aには、自宅の土地建物と1000万円の預金がある。 Aが脳梗塞で倒れて入院した際、付き添いのため依頼した家政婦が、Aの過大な要望に耐えられなかったため、長女Cが3か月間Aの入院中の世話をした。Cは、Aの退院後も約13年間にわたり、下半身不随となったAの通院に付き添い、入浴の介助などの日常的な介護を行い、Aが死亡するまでの半年間については失禁の処理も行った。他方で、長男BはAの療養看護を一切行っていない。 Aが死亡し、BC間で遺産分割協議が行われているが、Cは、Aの療養看護を行ってきたためBよりも多くの財産を取得したいと主張している。
CASE①やCASE②のように、相続人の中で相続財産の維持や増加に特別に貢献した者がいる場合、遺産分割の中で考慮されないと不公平ですよね。このような特別な貢献を遺産分割の中で考慮するための制度が「寄与分」です。
寄与分の要件は?
寄与分の条文を見てみましょう。
(寄与分)
第九百四条の二 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
それでは解説していきます。
まず、「共同相続人中に」とあるように、寄与分が認められるのは相続人に限られます。例えば、CASE①で、Cの配偶者がいくら農作業を手伝ったとしてもCの配偶者には寄与分として何らかの権利が認められることはありません(もっとも、民法改正により、「特別寄与料」という制度が新設されましたので、相続人以外の親族はこの制度により金銭請求ができる可能性があります。特別寄与料の制度については、次回解説します。)。
次に、具体的にどのような場合に「寄与分」が認められるのか。その要件は、「何らかの方法により、被相続人の財産が維持または増加したこと」です。
条文には、
・被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付(CASE①のような場合)
・被相続人の療養看護(CASE②のような場合)
といった方法が記載されていますが、これはあくまでも例示であり、何らかの方法により被相続人の財産が維持または増加すれば足ります。
しかしながら、実務においては寄与分の主張はそう簡単には認められていません。
条文をご覧になりお気づきかもしれませんが、寄与分が認められるためには、「特別の」寄与が必要になります。「単なる」寄与ではダメなのです。
特別の寄与が認められるには?
では、どのような場合に「特別の寄与」が認められるのでしょうか。
例えば、CASE①のような家業従事型の寄与の場合、「特別の寄与」が認められるためには、特別の貢献、無償性、継続性、専従性の各要件を満たす必要があると考えられています。つまり、特に対価をもらうことなく、継続して家業に専念して手伝うことが必要になります。
CASE①では、Cは会社員としての勤務期間中に約35年間もの長期間にわたり継続的にAの農作業を手伝い、Aが亡くなる前約3年間については専従的に農業に従事していました。そうすると、Aが80歳以上まで農業を営み続けることができたのは、Cによる相当程度の労働力の提供があったためであり、このようなCの農業に従事する態様は、AとCの身分関係に基づいて通常期待される程度を大きく越える貢献と言えるでしょう。
したがって、CASE①は、寄与分が認められるケースだと考えられます。なお、CASE①の題材になっている大阪高裁平成27年10月6日決定では、結論として、遺産のうちみかん畑の相続開始時における評価額の30パーセントをCの寄与分として認めています。
また、CASE②のような療養看護型の寄与の場合、「特別の寄与」が認められるためには、被相続人の医療機関への入院や介護施設への入所にただ付き添うだけでは足りません。そもそも配偶者や子は、協力・扶助義務(民法752条)や扶養義務(同877条1項)を負っていますので、このような義務を果たす程度、つまり、家族として通常行う程度の療養看護では「特別の寄与」とは認められません。
CASE②では、Cは、家政婦に代わり3か月間Aの入院中の世話をしたことに加え、Aの退院後についても、13年間にわたり日常的な介護を行い、Aの死亡前半年間については排泄の処理まで行っていました。そうすると、CによるAの入院期間中の看護、その死亡前約半年間の介護は、本来家政婦などを雇って被相続人の看護や介護に当たらせることを相当とする事情の下で行われたものであり、それ以外の期間についてもCによる入浴の世話や食事及び日常の細々した介護が約13年の長期間にわたって継続して行われたものであるから、CによるAの介護は、同居の親族の扶養義務の範囲を超え、相続財産の維持に貢献した側面があると評価することができます。
したがって、CASE②についても寄与分が認められるケースだと考えられます。CASE②の題材となっている東京高裁平成22年9月13日決定の事例でも、結論として、Cに200万円分の寄与分が認められています。
以上のとおり、寄与分の主張は簡単には認められないことがお分かりいただけたと思います。寄与分の認定は狭き門ではありますが、ケースバイケースですので、寄与分が認められるかどうかお困りの方は専門家にご相談ください。
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