前回までの記事で、どのような人が相続人になるのかを見てきました。
今回は、本来は相続人になるはずの人が、相続人になることができない場合があることを紹介します。
親を殺害した子供も相続人になれる?!
前回までの記事で見てきた相続人は、厳密に言うと、「推定相続人」といいます。推定相続人とは、被相続人についての相続が開始した場合に、相続人になることができる人をいいます。たとえば、分かりやすい事例でいうと、被相続人の子どもは、当然、推定相続人ですね。
では、次のような場合はどうなるのでしょうか?
CASE
Aはかなりの資産家だが、その子Bは遺産に目がくらみ、赤ワインに致死量の睡眠薬を溶かして飲ませ、Aを殺害した。その後Bは警察に逮捕され、刑事裁判で実刑判決を下され、刑務所に服役した。
常識的に、いくら子どもでも、親を殺した子どもが相続人になるのはおかしいと感じるでしょう。
民法は、このように推定相続人に相続をさせることがふさわしくない場合に、相続人の地位を強制的にはく奪する制度を備えています。これを、相続欠格制度と言います。
先ほどのCASEの親殺しの場合は、「故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者」(民法第891条第1号)に該当し、相続欠格となります。
遺言を偽造したらどうなる?!
親殺しまで極端な場合ではなくても、次のようなCASEも考えられます。
CASE
Aはかなりの資産家だが、寝たきりの状態であり、実印や金庫の管理をその子Bにすべて任せていた。Aは以前、元気だったころに、Bを含め他の子ども達(C、D)にも均等に遺産を分け与える内容の遺言を作成し、金庫にしまっていたが、BはAの遺産を独り占めしたくなり、ある夜、金庫をこじ開け、Aの遺言を破り捨てた。さらに、Aの筆跡を真似して、すべての遺産をBに相続させる旨の遺言を偽造し、Aの実印を無断で押捺し、金庫にしまっておいた。 Aが死亡した後、C、Dは金庫の中から遺言書を発見したが、どうも筆跡が不自然だったので、筆跡鑑定の専門家に鑑定を依頼したところ、Bが偽造したものであることが判明した。
このような場合は、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」として、Bは相続欠格となります(民法第891条第5号)。
被相続人に嘘を吹き込んで遺言をさせたらどうなる?!
CASE
Aはかなりの資産家で、2人の子どもB、Cがおり、配偶者Dはすでに死亡している。AとCは折り合いが悪く、長年絶縁状態であった。Aは、どのように遺言を書くか、長年悩んでおり、ある夜Bに相談をしたところ、Bはこの際、遺産を独り占めしようと考え、Cが長年にわたりDとの間で近親相姦を行っていたという嘘を思いつき、あることないことAに吹聴した。AはすっかりBの嘘を信じ込んでしまい、Cに激怒し、すべての遺産をBに相続させる旨の遺言を作成した。
このような場合は、Bは「詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者」として、相続欠格になります(民法第891条第4号)。
(参考)
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
以上
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