第8回 単純承認①

 イメージ

千葉 直愛

2018-11-19

第8回 単純承認①

  • sns_icon01

被相続人には財産だけではなく、どうやら債務もたくさんあるらしい・・・
 そんな場合に何もしなければどうなるのか。
 今回は、単純承認制度の基本的な部分をご紹介します。 

被相続人に財産だけではなく債務もある場合に、何もしないとどうなるの?

CASE①

A(65歳)には高齢の母B(90歳)がいる。父Cは早くに他界している。Aは生前、父Cと仲が悪く、殆ど会うことがなかった。 Bは昔から倹約家で、Aがお金に困るたびに、必要な資金援助をしてくれていた。Aは、Bの預貯金が2000万円程度はあるとかねがね聞いていた。 Bが誤飲性肺炎のため亡くなったため、AはBの財産を相続することになった。 ところがBが死亡してから4カ月後に、Bには2000万円の預貯金があるが、他方で5000万円の債務があることが判明した。債権者Dによると、Cが生前事業の失敗でこしらえた借金を、Bが相続し、今度はこれをAが相続することになった、とのことであった。

一般に、「相続」と聞くと、財産引き継ぐことをイメージするかもしれません。

被相続人に財産があれば、勿論、相続人は、被相続人の財産を引き継ぐことになりますが、他方で、被相続人に負債(借金、個人事業の買掛金、未払賃料etc)があれば、相続人は、被相続人の負債も承継することになります。

そのため、被相続人の負債が、財産を上回っている場合は、相続人は、相続によって、むしろ負債を承継することになってしまうのです。

相続人が何もせずに被相続人の財産と負債の一切を引き継ぐことを、「単純承認」といいます(民法第920条)。

CASE①では、Aは、2000万円の預貯金を承継する一方、5000万円の負債も承継しますので、単純承認をすると、結局、3000万円の負債を背負うことになってしまいます。

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

承認するなんて一言も言っていないのに、承認したことになるの?

CASE②
CASE①で、Aは、Dに対し、自分は債務の存在なんて知らなかったし、債務があるのであれば相続はしないと伝えた。すると、Dは、Bが死亡してから3カ月が経過しているので、相続をしないということは法律上許されない、早く借金を返せと催促してきた。

相続の承認に、「私は相続を承認する!」といった、何らかの具体的な言動は必要なのでしょうか。

答えはNOです。

民法第921条第2号は、次のように定めています。

(法定単純承認)
第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

民法第915条第1項は、前回、前々回の記事でも触れた、相続放棄の熟慮期間のことです。

(相続の承認又は放棄をすべき期間)
第九百十五条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

要するに、原則として、被相続人が死亡したときから3カ月を経過する間に、何等の手続きもしなければ、単純承認をしたものとみなされる、ということです。

CASE②では、Bの死亡からすでに4か月が経過していますので、Aは原則として、Bの財産だけではなく、債務も承継することになってしまうのです。

以上

この記事へのお問い合わせ
弁護士法人マーキュリージェネラル
http://www.mercury-law.com/

弁護士 イメージ

弁護士

京都大学法学部卒
神戸大学法科大学院修了

人気記事

  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告
  • 広告

遺言や相続でのお悩みを
私達が解決します。

フリーダイヤル0120-131-554受付時間 : 平日9:00〜17:00