第27回 遺言信託ってどんなもの?

江幡 吉昭

2019-09-20

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「財産をスムーズに相続したい。」
「相続人同士で争ってほしくない。」
そのために欠かせないのが遺言書ですよね。
遺言書があれば、おおよそ相続(争う族)の問題が解決できるといっても過言ではありません。
しかしながら、平成29年1月から12月までの1年間に全国で作成された公正証書遺言は11191件(日本公証人連合会ホームページより)と年々増加傾向にあるとはいえ、決して多い数字とは言えません。
遺言を作るというのは、日本人にとってまだまだ抵抗感があることの証なのではないでしょうか。

近年、関心を集める“遺言信託”

さて、“遺言信託”という言葉を一度は見たり、聞いたりしたことはありますよね。
某銀行のCMでは“相続の相談も銀行へ”といったPRをしていますし、先日、ある駅前の他の某銀行の支店前を通りかかったときに店内を覗くと、『遺言信託』と書かれた驚くほど大きなポスターが掲げられていました。
今、それほど“遺言信託”に注目が集まっています。
金融機関(主に信託銀行ですので、以下、信託銀行と書きます。)における遺言信託の取扱件数は、10年前と比べて倍増しているとのことです。終活ブームや民法(相続法)の改正もあり、遺言への関心が高まってきた表れでもあるのでしょう。
皆さんがいつも行く銀行(ATM)に立ち寄った際は、近くに置かれているチラシやパンフレットを見てみてください。必ずといっていいほど、『〇〇(信託)銀行の遺言信託』というパンフレットが置かれています。
実際にパンフレットをご覧になったり、銀行の窓口に相談に行かれた方もいらっしゃると思いますが、今回は遺言信託がどのようなものなのかを見ていきましょう。
興味はあるけれど、自分自身や我が家にとって必要なもの?そもそも遺言書との違いは?といった疑問を持たれている方も多いのではないでしょうか。

遺言信託の仕組み

遺言信託とは、信託銀行が“公正証書遺言の作成サポートや保管、遺言の執行を幅広く代行する”サービスです。
つまり、お客さまをサポートしながら公正証書による遺言書を作成・管理し、亡くなった後は遺族に代わって、遺産分割や各種名義変更などの手続きを進めてくれるというサービスです。
サービスの内容は大きく分けて、「①遺言書の作成と保管」と「②遺言の執行」の2つです。

①遺言書の作成と保管

信託銀行が、遺言書の作成と保管についてサポートします。
(1)事前相談・準備
遺言書を作成するために、財産や相続人の状況、遺言の内容などについての相談ができます。
遺言の作成にあたっては、保有している財産の内容を整理したり、遺産分割方法を検討したりといった事前準備が必要であり、専門的な知識を必要とすることもあります。
(2)遺言書の作成
公正証書による遺言書を作成します。その際、遺言者が亡くなった後の遺言執行者(※)として“信託銀行を指定”することができます。
(3)遺言書の保管
作成した遺言書を信託銀行が保管するとともに、遺言書の内容について定期的に照会・確認し、必要に応じて見直しを行います。遺言書の内容をいつでも修正(書き換え)できるのもメリットです。ただし、保管や書き換えには手数料がかかりますが。
 
(※)遺言執行者とは
遺言執行者とは、簡単に言うと遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことを言います。
財産目録を作成したり、各金融機関での解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなど、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます。
通常、配偶者や子を遺言執行者として指定することが多いでしょうが、ちなみにこの遺言執行者はいてもいなくても(遺言書で指定してもしなくても)遺言書の効力にはまったく影響がありません。しかし、遺言を確実に執行してもらうという観点からすれば、その役割は大きいですし、指定した方がよいと思います。
遺言信託を契約した場合、その信託銀行をこの遺言執行者に指定することができます。

②遺言の執行

信託銀行が、遺言執行者として遺言書の内容を実行します。
(1)遺言執行業務の開始
遺言者の死亡を受けて、信託銀行が遺言執行者として業務、手続きを開始します。
(2)財産目録の作成
遺言者の死亡を受けて、遺産や借金などの債務を調査し、相続財産の財産目録を作成します。
(3)遺言の執行(遺産分割や名義変更手続き)
遺言書の内容に基づいて、遺産の分割、不動産の名義変更などの手続きを進めていきます。

遺言信託のメリット

メリットとしては、次のようなことが挙げられます。
(上述した遺言信託の仕組みと重複する内容も多いですが、再度ご確認ください。)
 
■遺言書作成について、相談(アドバイス)を受けることができる。
信託銀行では、財産に関する幅広い業務を行っています。
よって、不動産などの資産の有効な運用や相続に関してのアドバイスを受けることができます。
 
■遺言書を保管、管理してもらえる。
自筆証書遺言の場合、遺言書は自宅や貸金庫などで保管することがほとんどでしょう。
しかし、遺言書の存在を遺族が知らなかったり、亡くなった後しばらく経過してから遺言書が発見されることで思わぬトラブルが発生する可能性もあります。
その点、信託銀行で保管、管理してもらっていれば、紛失や改ざんの心配もなく、相続発生後、確実に遺言が執行されるので安心です。
 
■遺言書の定期的な見直しや変更ができる。
遺言書の内容について、財産や相続人の状況に変わりがないか、信託銀行から定期的に照会・確認がありますので、必要に応じて遺言書を見直すことができます。
 
■遺言を執行してもらえる。
通常、亡くなった後、遺言書の内容を実現するには、相続人への連絡をはじめ、遺産分割や不動産の名義変更手続きなどを遺族が行うことになります。相続人との連絡がなかなか取れない場合や、手続きが複雑になる場合には、遺族にとってかなりの負担になります。
その点、信託銀行に遺言執行者になってもらえれば、その遺族の負担が減ることになります。

遺言信託のデメリット

メリットの一方、次のようなデメリットもありますので、特に注意が必要です。
 
■信託銀行がアドバイスできる範囲や遺言執行できる財産範囲には限りがある。
信託銀行が行うことができるアドバイスや遺言執行の範囲には限りがあります。また、法的な問題がある場合などには対応してもらえない(できない)こともあります。その場合、弁護士や司法書士、税理士への相談が別途必要になります。当然、その際は実費を負担することになります。
 
■引き受けてもらえない(=断られる)可能性がある。
相続人の間で遺産分割に関する争いが起きている場合や法的紛争に発展する可能性が高い場合には、遺言信託を引き受けてもらえない、あるいは遺言執行者を辞退される可能性があります。
遺言信託のパンフレットにもその旨が明記されています。
 
■費用(報酬や手数料)が高額になる。
遺言信託契約時の基本手数料や遺言書の保管料、そして遺言執行時の報酬などの費用がかかります。
特に、遺言執行時の報酬は財産の評価額によるため、不動産などの資産が多い場合の費用の総額はかなり高額になってしまいます。なお、手数料の体系は金融機関(さらには金融機関で扱うプラン)によって異なります。
以下、一例です。
・遺言信託契約時の基本手数料324,000
・遺言書管理手数料6,480円(年間)
・公正証書遺言の変更手数料 510万円
・遺言執行報酬 遺産額の12%程度
その他、不動産名義変更の際に司法書士報酬が数万円~20万円程度、相続税申告の際に税理士報酬が数十万~100万円単位、必要書類の取得費用も数千円かかります。
 
いかがでしょう。合計すると非常に高額になってしまいますよね。
ちなみに遺言執行報酬について、某信託銀行のパンフレットに基づいてざっと計算してみたところ、以下のとおりになりました・・・
※その信託銀行に財産を預けているかどうかによっても変わってきますのであくまでご参考です。
遺産5,000万円・・・108万円(最低報酬額)
遺産1億円  ・・・約189万円
遺産2億円  ・・・約297万円
遺産3億円  ・・・約383万円
遺産5億円  ・・・約513万円
遺産10億円 ・・・約728万円
 
遺言信託を検討する場合は、トータルで費用がどれくらいになるのか事前に確認しておくことが必要です。

遺言信託の注意点

思わぬトラブルに発展することもあります。
実際のトラブル事例をご紹介しましょう。
 
■遺言の執行に関するトラブル
相続人間で紛争が発生したため、信託銀行が遺言執行者を辞退することになりました。
これは、信託銀行が報酬を得て紛争事案を扱うことは、弁護士法に抵触する可能性があるためですが、遺言に関する業務はすべて信託銀行に行ってもらえると考えて高額は費用を支払った利用者にとっては納得できないかもしれません。
 
■遺言執行の報酬に関するトラブル
親が生前、遺言信託をしていたため、高額な遺言執行報酬を遺族が支払うことになりました。
遺言執行に関する費用は、遺言者の死後に相続人である遺族が支払う必要があるためです。
誰がどのくらい負担するのか、また遺言書にその記載はあるのか、相続人が複数いる場合には特にトラブルになりかねません。なお、遺言は遺言者の死後に効力が生じるため、遺言者の債務ではない遺言信託に関する費用は相続財産からの控除の対象にはなりません。

遺言信託まとめ

遺言信託は、大々的にPRされているほど相続対策の有効な手段ではない、メリット以上のデメリットや注意点があるということがお分かりいただけたと思います。
そんなに高いお金を払ってまで遺言信託をする必要があるの?というのが正直な感想です。
少し頑張って自分で遺言書を作成したり、相続人が遺言執行の手続きをすれば、費用があまりかからないこともたくさんあるのに、どうしても忙しくて時間もないし、面倒だからということになってしまうのでしょう。
「よく分からないけど、(信託)銀行は信用できるから・・・」という理由だけでは、お金ばかりがかかってしまい、最悪の場合、高額の費用を払ったのに何も解決しない、さらには余計にトラブルが発生してしまった、ということにもなりかねません。遺言信託を利用せずとも、専門家に任せることができ、費用もずっと安く遺言執行の手続きや相続税申告をやってくれるところはたくさんあります。しっかりと専門家に相談したいものですね。(当協会にも遠慮なくご相談ください。)

江幡 吉昭

法政大学卒業後、住友生命保険、英スタンダードチャータード銀行を経て、2009年株式会社アレース・ファミリーオフィス設立。アレース・ホールディングス代表。一般社団法人相続終活専門協会代表理事。
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