第23回 配偶者居住権の新設

田中 誠

2019-06-14

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民法(相続法)の改正によって、2020年4月1日から「配偶者居住権」という制度が新設されることになりました。今回はその配偶者居住権について見てみましょう。

配偶者居住権が新設された背景

これまでの相続では、亡くなった方の持ち家に同居していた配偶者がその自宅に住み続けるためには、配偶者自身が自宅を相続する方法が一般的でした。
しかし、その自宅の評価額が高額となる場合、自宅を相続したことで今後の生活資金となる預貯金を十分に相続できず、結果として自宅を手放さざるを得ないケースが多く見られました。
そこで、配偶者が自宅に住み続け、かつ生活資金としての預貯金も取得しやすくするために、相続法が改正され、配偶者居住権が新設されました。

配偶者居住権とはどんな制度?

配偶者居住権とは、相続開始時に、亡くなった方の持ち家に同居していた配偶者は、終身にわたってその自宅に無償で済み続けることができる権利です。
平たく言うと「相続が発生する前から夫婦で住んでいた自宅は、配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても、引き続きずっと住んでもいいですよ。」というものです。
自宅を不動産所有権という一つの権利ではなく、「居住権」と「所有権」という2つの権利に分け、「居住権」を配偶者が取得しながら、預貯金など他の財産も相続しやすくなりました。
 
この配偶者居住権を理解するうえで大切なポイントが3つあります。

自宅の権利を2つに分離する

「配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても」と上述しましたが、当然のことながら、配偶者が自宅の権利を相続すれば、誰にも文句を言われる筋合いもなく、その自宅に住み続けることができます。
一方、配偶者が自宅の権利を相続しなかった場合には、最悪の場合、権利を相続した人から、自宅を追い出されてしまう可能性もあります。
そこで、配偶者がその自宅の権利を相続しなかったとしても、その自宅に住み続ける権利だけは認めてあげましょうというのが配偶者居住権です。
 
次のようにイメージしてください。 
自宅の権利は、その自宅を「使う(住む)権利」と、その自宅を売却した時に売却代金をもらう権利などの「その他の権利」の2つがセットになって構成されています。
配偶者居住権という仕組みは、この「使う(住む)権利」と「その他の権利」を分離して、それぞれの権利を別の人が相続することを認める仕組みです。
配偶者には「使う(住む)権利」を、その他の相続人には「その他の権利」を相続させることができるようになったのです。
この「使う(住む)権利」のことを“配偶者居住権”といい、「その他の権利」のことを“配偶者居住権付きの所有権”といいます。

配偶者居住権は登記が必要

配偶者居住権は、相続が発生した時に、その自宅に住んでいた配偶者にだけ認められ、かつ配偶者居住権の登記が必要になります。
その自宅に住んでいた配偶者にだけ認められますので、別居していた夫婦の間では認められません。
また、大切なポイントですが、配偶者居住権は、不動産の登記簿謄本に登記しなければ効力を発揮しません。遺産分割協議で配偶者居住権を相続することが決まっても、登記をしないままにしていると、新しい所有者が勝手に売却してしまうかもしれませんので注意が必要です。

配偶者居住権は売却できない、相続できない

配偶者居住権はあくまで配偶者にだけ認められた権利です。そのため、人に売却することはできません。
また、その配偶者の死亡によって配偶者居住権は消滅するため、その権利を誰かに相続させたりすることもできません。
配偶者居住権が消滅した後は、その他の権利、つまり所有権を相続していた人が、その不動産の権利を丸ごと所有することになります。つまり、通常の所有権という形に戻るというわけです。
配偶者居住権が消滅した後は、所有権を持っている人が住むのも、売却するのも、取り壊して立て直すのもすべて自由になります。

ここで具体的な事例を見てみましょう

CASE①>
Aさんは4,000万円の自宅と4,000万円の預金を持っていました。
Aさんには妻Xさんと、娘Yさんがいましたが、残念なことにXさんとYさんは、もう長い間、仲が良くありません。
そんな中、Aさんが病気で亡くなってしまいました。
Xさんは、これまでAさんと暮らしてきた自宅だけは今後も自分が住み続けたいため絶対に相続したいと考えています
遺産の分け方は、XさんとYさんの間で合意すれば自由に決めることができます。しかし、二人が合意しなければいつまで経っても遺産を分けることができません。両者の折り合いがつかない場合には、法定相続分で遺産の分け方を決めることになります。XさんとYさんの法定相続分は2分の1ずつです。今回のケースでは、合計8,000万円の遺産がありますので、4,000万円ずつ遺産を分けることになります。
ぴったり4,000万円ずつ分けようとする場合には、Xさんは自宅を、Yさんは預金をすべて、という分け方になります。法定相続分に基づいた公平な分け方ではありますが、この分け方だと預金を相続できなかったXさんの今後の生活が成り立たなくなってしまう可能性があります。
 
もっと大変なケースを想定してみましょう。
 
CASE②>
CASE①と同じ家族状況で、財産が自宅4,000万円、預金が1,000万円の合計5,000万円の場合だとどうでしょうか。
この場合、法定相続分で相続しようとすると、2,500万円ずつに遺産を分けることになりますが、預金は1,000万円しかありません。娘Yさんに残りの1,500万円を相続させるためには、最悪の場合、自宅を売却しなければならなくなるかもしれません。
 
さて、これまでは上記のような事態が発生していましたが、このような事態を解消するために新設された配偶者居住権を設定した場合、それぞれのケースではどうなるか見てみましょう。
 
CASE①‐配偶者居住権あり>
自宅は4,000万円の価値がありますが、これを配偶者居住権と所有権の2つに分離させます。
仮に配偶者居住権の価値が2,000万円で、所有権が2,000万円だったとします。
Xは自宅に住み続けることが目的ですので、配偶者居住権があればその目的は達成されます。
Aさんの遺産8,000万円のうち、2,000万円の配偶者居住権と2,000万円の預金の合計4,000万円を相続することができますので、住み続ける権利も保証され、今後の生活費も確保できますので安心です。
 
CASE②‐配偶者居住権あり>
遺産5,000万円のうち、妻Xさんは配偶者居住権2,000万円と預金500万円の合計2,500万円を相続し、娘Yさんは自宅の所有権2,000万円と預金500万円の合計2,500万円を相続することによって、ちょうど半分ずつに分けることができます。自宅も売却せずに済みますね。
もし、配偶者(妻)が高齢の場合、住み慣れた自宅を売却し、新しい住まいを見つけるのは大変な話です。高齢者の方は賃貸物件を借りる際も比較的審査が厳しい傾向にありますし、住み慣れない町に引っ越すことは、非常に大きなストレスになりますが、そういった問題点も解消されます。
 
このように配偶者居住権は自宅の権利を2つに分離させることによって、配偶者の自宅に住み続ける権利を守りつつ、遺産分割協議を円滑にすることを目的として創設されたということがご理解いただけたと思います。

こんなときは注意が必要!

相続が発生する前の自宅の権利が、夫と妻の共有となっている場合、配偶者居住権の設定は可能です。
一方、相続が発生する前の自宅の権利が夫と子の共有となっている場合は、配偶者居住権の設定ができません。よって、配偶者居住権を設定したいのであれば、相続が発生する前に子の権利を夫か妻が取得しておく必要がありますので注意が必要です。
 
また、配偶者居住権が設定された自宅は、配偶者居住権と所有権が分けられることで、その利用価値が減少するため評価額も低くなります。
これまで述べてきたように、配偶者居住権を設定することにより、相続による預貯金の取得額にも影響が出てくることから、すでに相続対策を行った方でも、その見直しが必要になってくるケースも出てくるでしょう。
 
これらもいわゆる終活の一環ですね。
 
次回は、具体的に配偶者居住権と所有権を分けるときに、いくらずつで評価額を計算するのかを見ていきたいと思います。

田中 誠

長野県生まれ
横浜国立大学経営学部卒業

アーレスリアルエステート

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