第1回 法定相続人と法定相続分

千葉 直愛

2018-03-24

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はじめに
「相続税のルールが変わって、そんなに遺産がない人でも相続税が発生するようになった」
「遺言を書いておいた方が相続人間の争いが起こりにくいから、書いておいた方がいいらしい」

こんな話を、最近よく耳にするのではないでしょうか。

他方で、

「うちは自宅の土地建物と自家用車、ちょっとした預貯金くらいしか遺産はない。どうせ私が死ぬまでの間に、預貯金は使い切ってしまうだろうし、うちの子供たちはわざわざ遺言なんて書かなくても揉めないだろう」
「自分の周りでも遺言を書いている人はまだそう多くない。書かないのが普通なんだ」

こんな風に考えて、実際に遺言を書くには至っていない、という人もまた、多いのが現状ではないでしょうか。

しかし、紛争化してしまった相続案件を多数経験してきた弁護士の目から見ると、遺言は絶対に書いておいた方がよいです。

また、単に書けばよいというわけではありません。方式もしっかり守らなければなりませんし、その内容も、様々な法律、税制、そして、残された家族が遺言を読んで感じるであろう思いを想像しながら、慎重に作成しなければ、結局、遺言があっても争いを避けられず、むしろ争いを激しくしてしまうことすらあります。

本連載では、相続について定める民法の基本的なルールをベースに、相続税や登記のルールにも目配せをしながら、なぜ遺言を書いておいた方がよいのか、書くとすればどのような点に注意をして書くべきなのかを、説き起こしていきたいと思います。

第1回となる今回は、遺言を書かないと、誰が、遺産をどのくらいもらうことになるのかという、法定相続人と法定相続分の基本的なルールを確認します。
 

CASE
佐藤博(70)と幸子(67)は45年来連れ添ってきた仲睦まじい夫婦である。 二人とも地方出身で、東京で就職し、職場恋愛で結婚した。 結婚した年に、長女の陽子(35)が生まれ、2年後に、長男の誠(33)が生まれた。 博は、結婚後、都心部から1時間以内のベッドタウンにマイホームを購入した。 幸子は寿退社して、専業主婦だったので、二人の子供の学費や住宅ローンの返済で、家計は火の車だった。
博は最初に就職した会社に勤め続け、鬼の35年ローンを完済した。ローンを完済したころには、二人の子供は結婚し経済的に自立していたので、65歳で定年退職するまで、数年間は、多少余裕のある生活をすることができた。そうはいっても、老後の心配があるので、最低限の生活に必要な費用以外は貯金に回し、どうにか500万円程度の預貯金を形成して、無事定年退職した。退職金は1500万円だった。博には、自宅と預貯金以外に特にめぼしい資産はない。自宅の土地建物は、不動産屋によれば4000万円くらいの価値があるらしい。

このCASEで、博が遺言を書かずに突然亡くなってしまったらどうなるでしょうか。

誰が法定相続人になるの?

相続のルールを定める民法は、遺言がない場合に、だれが相続人になるのかを定めています。これを、「法定相続人」といいます。「法」が「定」めている「相続人」なので、「法定相続人」といいます。

第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第八百八十七条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。


 わかりやすくいうと、、、
 死亡した人(民法では、「被相続人」といいます。)に子供がいれば、まずは子供が相続人になります(第一順位の法定相続人)。子供がいない場合は、被相続人の父母が相続人になります(第二順位の法定相続人)。父母も不在であれば、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります(第三順位の法定相続人)。これらの第一~第三順位とは別に、被相続人の配偶者は、いつでも、相続人になります。
 これが、民法が定める法定相続人のルールです(今回は、代襲相続など細かいルールは説明を省略しています。)。

 今回のCASEで博が遺言を書かずに突然亡くなった場合、妻の幸子、長女の陽子、長男の誠が法定相続人になるわけです。

法定相続人の相続分はどうやって決まるの?

では、遺言がなかった場合、幸子、陽子、誠は、博の遺産をどうやって分けるのでしょうか?

 民法は、次のとおり、法定相続分のルールを定めています。

(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
  • 一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。
  • 二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。
  • 三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。
  • 四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

 今回のCASEでは、「配偶者」と「子」が相続人なので、幸子は2分の1、子らは2分の1(つまり、陽子は4分の1、誠は4分の1)の相続分、ということになります。

 ところで、ここでは「相続分」ということばに注意してください。
 「相続分」とは、割合を決めているだけであって、実際に、誰が何を相続するかについては、まったく触れていないのです。民法が決めているのは、博の遺産のうち、2分の1に相当するものを幸子に、4分の1に相当するものを陽子に、4分の1に相当するものを誠に相続させるということだけなのです。
 もっと具体的にいうと、博の自宅を、自動的に幸子2分の1、陽子4分の1、誠4分の1で共有することになるわけではないのです。

 そのため、博が突然亡くなった場合、誰が、何を取得するのかについては、結局、残された幸子、陽子、誠の話し合いで決められることになります。これを、遺産分割協議と言います。

 ところが、このような「いかにもありそうな」CASEですら、すでに、博の財産をきれいに幸子2分の1、陽子4分の1、誠4分の1に分けることはできません。自宅土地建物4000万、預貯金2000万を綺麗に分けようと思うと、自宅土地建物を売却して現金化するか、自宅土地建物を共有にするしかありませんが、実際にここに住んでいない陽子や誠が、不動産を欲しがるでしょうか。あるいは、幸子が不動産を全部取得したとしても、預貯金を一切取得できないとすれば、今後の生活に困らないでしょうか。

 遺言を書かないということは、このような、金銭が絡み、さらには法律、税務が絡み合う複雑な問題を、残された家族に丸投げするに等しいことなのです。相続人全員が、円満な関係を続けており、かつ経済的に満ち足りていれば、話し合い(遺産分割協議)はうまくいくように思われるかもしれませんが、そのようなご家庭でも、実際は、揉めていることが多いのが実態です。

 本連載では、民法の基本的な定めに立ち返りながら、遺言を残しておくことの重要性について、紐解いていきたいと思います。

千葉 直愛

弁護士法人マーキュリージェネラル 所属 

相続終活専門士

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